『movie〜case1・死にたがる男〜第2話』



「自殺はよくないですよぅ?考え直しましょうよぅ…ね?」



目の前に座る二十歳前後と思われる小柄な女性が、さっきから何度もそう言ってくる
その細く小さい身体のどこに吸収されるのか?彼女はさっきからチョコレートパフェを食べ続け、三杯目に突入していた。

大きな瞳を大きな黒縁メガネで囲い、黒髪の少し伸びてしまったマッシュルームカットや、黄色いチェックのシャツをブカブカのオーバーオールに押し込んだその様は、可愛らしく整っている顔立ちを、全体的に野暮ったい印象にさせている。



「…うん。やっぱり自殺はよくないですよぅ。」



自分の言葉に頷いて、また同じ言葉を繰り返した…
この頭の悪そうな幼い喋り方がいちいち堪に障る。


なんだこの状況は…?


オレンジ色の古めかしい照明と年季の入ったテーブルやソファ。この喫茶店で、彼女と出会ってから30分以上経過していた。










私は4日前に【撮影倶楽部】というサイトに『私の自殺を撮影して下さい。』とメッセージを送った。
2日間何も音沙汰がなく、何かの悪戯だったのだ。と結論づけた3日目、私のパソコンに『まだ死んでなかったら新宿駅西口の【ピース】という喫茶店で明日14:00。』というメッセージが送られてきた。
そして今、私は彼女に自殺をやめる様説得されている。





私は理解した。


これはきっと何らかの宗教の勧誘なのだ。
自殺をしようとしている精神的に弱った者を勧誘して、金をせしめるつもりなのだ。
私が無言で席を立つと「あぁ!ちょ、ちょっと待って下さぃ!」と私のジャケットの袖口を掴んだ。
彼女は大きな瞳を潤ませて「もうすこしで部長きますのでぇ!」と懇願してきた。



いやいや…

その部長とやらが来てしまったら、訳の解らない銅像やら、象牙の印鑑やら、大理石の表札などを買わされてしまうだろう。
それは、凄く、嫌だ。
私が控えめに彼女を振り切ろうとした時、「なにやってんだか…」と気だるそうに呟く声が聞こえた。
そこには、全身黒で統一された服を着た、恐ろしく肌の白い男が立っていた。





ひとまず着席して、私が宗教などに興味がない事、素寒貧ゆえ銅像などを買う金などない事を主張すると、男は目を白黒させた後、


「…ロミ、ちゃんと説明したのか?」

「え?はぃ!自殺は駄目だと説得しましたぁ!」

「死んでくれなきゃ困るだろ」

と彼女の頭をかなり強めにはたいた。

「部長痛ひですよぉ!」
と彼女は半泣きになっている。



何だこれは?
今度は私が目を白黒させていると、男が名刺を渡してきた。

男の名前は橘颯太(たちばなそうた)というらしい。肩書きに部長・監督・演出・脚本とある。
女は舌ったらずな口調で朝倉露美(あさくらろみ)と名乗った。
撮影倶楽部とは、この2人にカメラマンである石動豪(いするぎごう)なる人物を入れた3人組で構成されているらしい。



橘颯太が丁寧に説明してくれた。
まず宗教団体ではない事。
自分達は映像を専攻している大学生である事。
必要経費以外の金品の要求は一切しない事。
そして依頼費も無料である事。
今後の連絡は今から渡す携帯電話でのみ取り合う事。
私の自殺を映像に収め、ドキュメンタリーを制作する事。
自分達は自殺を止める様な不粋な真似はしない事…



私が、何故君達はこんな事をしているのか?と尋ねると、橘颯太はゾッとするような冷たい目で一瞥した後、唇を片方だけあげて「…暇潰しですかね?」とニヤリと笑った。

「部長。感じ悪いですよ」と朝倉露美が注意すると、また頭をはたかれていた。



とにかく私は、少し安堵していた。朝倉露美はともかく、橘颯太は単なる傍観者のスタンスだ。
変な正義感や常識を押しつけてくる様子ではない。
ただ淡々と映像に収めてくれそうだ。
私がホッと息を吐くと橘颯太は





「さて、ここが一番重要です。」と、前置きした後




「あなたの物語を、あなたは誰に見せたいですか?」






心臓がドクンと跳ねた。
なぜだか解らないが、異様な迫力があった。
周囲のざわめきが消え、心臓の鼓動だけが聞こえる。

橘颯太の切れ長の目が真っ直ぐに私を捕える。
それは思わず顔を背けたくなる視線だ。
テーブルの下、膝の上で震える自分の手に力を入れて、答えると



「解りました。では明日から撮影を開始します。」
と言って、他の説明はなく、2人とも店を出ていった。






現実感がなく暫く呆然とした後、ふとテーブルを見ると、伝票が置いたまま…

自分は珈琲一杯しか飲んでいないのに、朝倉露美のパフェの分も払わないといけないのか…


また少し憂鬱になった。


(つづく)

 
  • コメント(全4件)
  • ライガ- =(^・_・^)= 
    1/14 18:13

    ふむふむ‥

  • せいちゃん 
    1/14 22:29

    今回の小説はマンガテイストだね

    これを原作にそのまま絵つけられそうな感じ
  • おかっぱ 
    10/29 11:01

    はじめまして

    オンバト初OAされた頃から応援してます*
    やさしい雨さんのネタ大好きです(^^)


    また日記更新してくださいね!
    楽しみにしてます(*^^*)
  • 姫菜 
    9/18 02:48

    白黒…んー描写薄
    ほんとうに自殺したい人間ゎあー誰にも頼らない。最後のサイン残すくらい
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