1歳馬1頭9億円のお買い物(前編)

私が番頭やってたころのフサイチ軍団はとにかく高額馬揃いで有名だった。3,000万円の馬なんて安い安いって感じ。


そんな高額馬の中でも抜きん出て高かったのは父ストームキャットの「ミスターセキグチ」だ。


世界最大のセリ、キーンランドセールのイヤリングセール(1歳馬セール)で購入。私は現地入りしていたわけだが、実は買う目的ではなく、アメリカで生産した1歳馬を売るために行っていたのだ。


さて、セリ初日、日本にいるフサロー君からセリ会場の私に国際電話が入った。


「今回のセリ、どうなの?なんかエエ馬おるの?」


一瞬イヤな予感がした。「まあ1頭、目玉って言われている馬が出てますねぇ・・・」さり気なく答えたつもりだったが、後ろに響くオークショニアの声、セリ会場の臨場感が受話器を通して日本に伝わる(ほんと、アメリカのセリって高揚感バツグンでついつい競っちゃうんだよね)。


「エライ盛り上がっとるね!ほんでその目玉っちゅうのはどんな馬や?」


「えっと〜実は父ストームキャットの牡馬なんですが・・・」


「なに?あんた今、ストームキャット言うたか?」


そう、ストームキャット産駒はフサロー君が欲しくて欲しくて欲しくて仕方ない血統。そのため私は丸々2ヶ月間、世界中を駆け巡りストームキャット産駒を探す旅に行かされたくらいだ。


「まあそうなんですけど・・・・」「いつ出るの?」「明日のセリです」しばらくの沈黙・・・


「あっそ、わかった。じゃまたね。」ガチャっと電話が切れる。


わかった?どうもわかってないような感じなんだけど。


数時間後、また携帯がなった、やはりフサロー君だ。


「あのね、ワシ決めたの。その馬買うわ。」


「は?」


「明日の朝イチの飛行機でそっち行くから」


「って言うか朝イチ出てもセリに間に合わないよ。」


「ええんじゃ〜っ!行くっちゅうたら行くんや!間に合わんかったらあんたが代わりに競りゃええんじゃっ!わかったか〜!」


ガチャっ。電話が切れた。


マジ?マジで?本気だよね?え〜っ!何の準備もしてないじゃん!


慌てて馬房に走り馬の下見をして獣医検査をしてもらう。あちこちにスパイを張り巡らせて、誰が狙っているのか、だいたいおいくら万円になるのか、情報を収集する。メジャーなエージェントや調教師さんのその馬に対しての評価を集める。


獣医検査で一番大事なのはもちろん足元の検査もあるが、ノドの検査が本当に重要なのだ。ノドの弁がうまく機能しなかったり、気道が細かったりすると、かなり致命的なわけだが、この馬は難なくクリアしてしまった。


ちょうど栗東の森調教師がセリに来ていたのでモリリンにも相談。「会長マジなの?」「どうもマジっぽいんだよね・・・・」


戦々恐々とする中、夜は更けていく。すると日本にいるフサロー君の秘書から「会長が今、六本木ヒルズを出て空港に向かいました」と言う電話が入る。


ついにテポドンがケンタッキーに向けて発射された。