せいゆう

せいゆうに行った。

主婦達は、目を光らせ夕食になるであろう食材を吟味する時間。

食材以上に吟味が必要なものがある。

レジ。


性能が全く同じマシンが並んでいるはずなのに、全く進めなくなる落とし穴がある場所。

この時間、一度列に並んでしまうと離れる為にはとてもパワーがいる。
猛暑で疲弊した体を、冷凍食品コーナーで回復させたからと言って、これはなかなか辛い。

よって、レジ選びも真剣になる。

選ぶポイントは、並んでいる人間の年齢、オペレーター(レジを打つ人)の年齢、並んでいる人間の買い物の量。

ココだ。

縦縞シャツに身を包んだ動きにキレがあるお兄さんのレジ。僕はこの人に自分のココから数分の運命を託す。

不思議な事に、レジに並ぶと隣のレジの自分と同じ位の位置であろう人がライバルになる。

あいつより早くこのレジを抜けて、品物をつめる所まで行く。その事だけを考えてレジに並ぶ。

今日のライバルは黒ぶち眼鏡の女の子、オペレーターは新人の匂いがするおじさん、いざ勝負。

開始早々、勝利の女神はこちらに微笑みっぱなしだった。

向こうのオペレーターは、さっそく「レジ袋要りませんの札」に気がつかず2円引いてくれとお客さんに言われパニック。

いっこうに進まない向こうの列、こちらはリズミカルにボタンを押し踊る様にバーコードを通す縦縞シャツのソリスト。

黒ぶち眼鏡の女の子は、心なしか涙を浮かべている様に見える。

悪いなお嬢さん、勝負の世界は時として残酷なもんさ。心の中で呟く。


そして、次の次が自分の番、縦縞のソリストの手先まで確認できる場所に来た時、ソリストの手が止まる。

オバちゃんが、商品を取りに消える。


何で?何で、このタイミングで気付くの?取りに行けるの?
並んでいた全員の思いが一つになっていた頃、隣のレジの列が驚異的なスピードで流れ出す。

オペレータチェンジ・・・オペレーターチェンジとは、パニック陥った新人さんだけが使えるベテランオペレーターを召還する特殊能力。


まるで眠っていたかのような隣のレジが、今オペレーターと一つになっていた。

驚異的なスピードで進む列と停止した縦縞の列。明暗はハッキリ分かれ、自分の負けを覚悟したその時、レジが動いた。

のりの佃煮を持って、オバちゃんが帰って来た。
帰って来たオバちゃんは、こちらに向かってウィンクした様に思えたのは、気のせいじゃないだろう。

帰って来たオバちゃんと縦縞ソリストのワルツ。
並んでいた人間が、みな感動しただろう。

オペレーターの実力は五分。
黒ぶち眼鏡の女の子との位置も五分。

さぁ、勝負。
しかし、ココでこのレジを選んだ効果が発揮される。

前に並んでいる人が、ペットボトルのウーロン茶のみ。

勝った。

向こうの刺身、牛乳、豆腐にビールのおじさんとの差は歴然。

ウーロン茶がレジを通る。
自分だ、思った瞬間。

一万円札。
支払いは、一万円札だった。

明らかな両替。

縦縞ソリストが札の確認をしている頃、黒ぶち眼鏡がレジを通りだす。

こっちのカゴには、麻婆ナスの素と卵豆腐のみ。
勝負の行方は、まだ分からない。

事態を察したであろう縦縞ソリストも激しいリズムでレジを打つ。

向こうは・・・・・


同時。

2人は、ほぼ同時にレジを抜ける。

チェッカーフラグが激しく降られ、周りの買い物客から拍手が巻き起こる。


僕らは、お互いの健闘を称え合いながら商品を袋につめる

そして、みな何事もなかったかの様に、それぞれ家に帰って行きましたとさ。

まぁ、実際何もなかったしね。

fin