ブログ小説『キャベツの夜』

  • 野村佑香 公式ブログ/ブログ小説『キャベツの夜』 画像1
木枯らしが吹きすさぶ中、
細い足に引っ掛けたように履いたハイヒールを
コツコツ鳴らし

適当に目に入った店で

適当に座る。

メニューの文字は目に入らない

これまた適当に一番上にかいてあったものを頼み、
やっと人心地がついた。

大きなため息とともに背もたれに身を預ける。

硬そうな見た目とはうらはらに
しっくりと木のカーブが麻美の骨ばった背中を受け止めた。

別に夕飯なんて食べなくても良かったのだ。

即効で家に帰り、
いけないと思いながらメイクも落とさず
とりあえずベッドにもぐりこみたかった。

対処しきれないような問題にぶち当たると
麻美はまずいつもそうしていた。

一年ほど前までは。

「食事は三度とったほうがいいよ。」

バリバリの営業マンのくせに。

接待で終電で帰れない日も続くくせに。

仁志ひとしは自然食やら天然素材にこだわっていた。

台所には麻美が見たことも無いような
雑穀やら乾物やらのストックがあり

冷蔵庫にはきちんと昆布としいたけの出汁が密封されていた。

男の一人暮らしなんてカップヌードルやコンビニ食で済ますもんだと思っていた。

「なにも難しいものじゃないんだよ。」

やさしい笑みと染み渡る声。

お互いに忙しい時間を縫って
彼の部屋で二人で過ごす仁志の手料理を食べる時間は
麻美にとって愛しいものとなっていた。

それなのに・・・・・

「きゃべつのポトフでございます。」

急に現実に引き戻され、
声の方を見上げると
暖かな湯気とともに白いお皿がコトリと目の前に置かれた。

ソラに浮かぶ半月のようなキャベツが
お皿の真ん中に浮かんでいる。

暖かなものに吸い寄せられるように
思わず触った皿のふちの
薬指の指輪に目がいき、

「・・・・・ゥッ」

言葉にならない声が出た。

自分と関係ないところで、
勝手にキャベツの湯気で
ショックで固まってしまった感情が溶け出す。

28になって、キャベツ目の前になに泣いてるんだろう

何やってんだか

恥ずかしい思いと開放的な思いが入り混じって
どうしようもなく、泣ける。

「キャベツはストレスにも老化防止にもいいから、
仕事の怒りで小じわが増えるっておこってる麻美にちょうどいいかもね」

うるさい、仁志!

いつかの言葉が頭に響く。

前は野菜なんて全部一緒のようなもんだと思ってたのにな

やっと笑えた自分に気づいて深呼吸した。

「・・・・・さて、たべますか。」

赤い顔のままナイフとフォークをつかみ
くたくたに煮えているキャベツにスゥッとナイフを入れる。

煮汁がたれないよう、一口大のキャベツを口に運ぶと、

今度は美味しさのため息が出た。

思えば、昨日のあの電話から口に入れても
ブラックホールに落ちていく感覚で味なんてわかっていなかったのだ。

シンプルな料理だからこそ感じる
キャベツの甘み、マスタードの程よい酸味。

急に空腹を自覚して
その暖かさを体に取り込んでいく。

たかが、キャベツ
されど、キャベツ

ぐるぐるとおなかから感じるエネルギーは
麻美を幸福な気持ちにさせた。

唇をてかてかにしながら、
お皿を空っぽにして

赤い壁、白熱灯が何個もぶら下がった、木材に囲まれた
ビストロの窓際席で麻美は決意した。

電話越しに決意した声で告げた

「俺、会社をやめて自然栽培農家になろうと思う」

その言葉に返事をしよう。

彼にどこまでもついていってみよう、と。




〈キャベツのポトフ〉

材料

・キャベツ

・水

・オリーブオイル

・塩、黒胡椒

・粒マスタード

・昆布

・白味噌

厚手のお鍋、私はルクルーゼを使いました。
それに、大きめに切ったキャベツをいれて
オリーブオイルを少し多めにまわしかけます。

キャベツが半分浸るくらいのお水をいれて、カットした昆布を入れます。

塩と胡椒をふり、大体小さじ1〜2の粒マスタードと白味噌を隠し味にいれて、
とろ火でぐつぐつと煮混みます。

長く時間をかけた方が美味しいやさしい味になるかと思います☆

 
  • コメント(全10件)
  • ぬまっち 
    9/24 22:29

    お疲れ様です



    前置きなんぞwwww
  • ホヌ 
    9/25 00:20

    シンプ

    いいね

  • エクニカ~ドリ仲間大募集中です~ 
    9/25 00:26


    物語の最後は絶対にハッピーエンディン
    であるべきですよね


    絶対

  • 放浪人(TABIBITO) 
    9/25 00:52



      小説も

       レシピ


        ごちそぉさまでした ( ̄人 ̄)


  • ポーン 
    9/25 00:55

    「優雅なハリネズミ」をを読まれてたようで、佑香さんがどのようなジャンルの本がお好きなのかはあまり知らないのですが、お薦めしたい本があります。「猫たちの聖夜」アキフ ピリンチ (著)です。他にもいっはいありますが、また佑香さんがどんな本が好きなのか教えて下さいね
  • higher 
    9/25 01:51




    ありがとう。

    素敵なお話し
  • 愛梨 
    9/25 04:27

     心がほっこりするようなお話ですね。
     幸せな未来を予感できるようなラストも大好きです

     寒くなってきたから、明日はこの「キャベツのポトフ」を作ろうかな


     私はタジン鍋で作ってみます。
  • ゴンタ 
    9/25 09:35

    いい話ですが、仁志ひとしって どっちがなまえなんだか、わかりっらいなぁ
  • Emilee 
    9/25 11:03

    素敵でした
    のお話…本にして欲しいで

  • Emilee 
    9/27 23:09

    やっぱり本にして欲しいです☆☆フォト付きで

    心が「ふんわり☆まろやか」になる感じ



    忘れられなくてもう一回コメントしちゃっいました

  • GREEにログイン(新規登録)するとコメントを書くことができます。
    ログイン(新規登録)