木曜日『なっちん write a play 』

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さてさて、後2回となりましたこのお話。

クリスマス前に全部お届けしたいので、今日は一段と長くてすみません
続きをどうぞ



場所は、カウンターだけの殺風景なとある1室に戻っている。奥から一ツ木、男1、2が戻ってくる。

男2: あれ?あのー。

男1: どうした?

男2: いないんです。さっき忘れ物をしたと尋ねて来た女の子。ちょっと探してきます。
     

飛び出していく、男2。笑いながら見守る男1、一ツ木。慌てた様子ですぐに戻ってくる男2。


男2:  あ、でも、僕、名前聞くの忘れてしまって、呼ぶにも呼べなくて・・・。

男1:  すぐに戻ってくるでしょ。

男2:  えぇー、冷たいな、宮本さん。

男1:  だって、忘れ物を捜しにわざわざここまで来たんでしょ?彼
女。なら、必ず戻って来るよ。

男2:  (一ツ木に)でも、5時が最終便ですよね。間に合うかな・・・。

一ツ木: 間に合わなかったら、また来年!

男2:  一ツ木さんまで・・・。ひどいな〜。

男1:  (一ツ木に)ね、ドラエモンの絵描き歌覚えてる?

一ツ木: 覚えてますよ。俺、こう見えても美術5でしたから。

男2:  (小声で)美術5は関係ないだろ。
     

男1、一ツ木、男2をキッと睨む。


男2:  いえ、ひとり事です。どうぞ、進めて下さい。

一ツ木: (絵を描きながら)丸かいてちょん、丸かいてちょん、丸かいてちょん、丸かいてちょん、丸かいてちょん、丸かいてちょん

男1:  (男2を嬉しいそうに見ている)

男2:  ・・・・。ったく、一ツ木さんまで・・・。

男1: 向こうにいる時はさ、みんな『こうじゃないといけない』って思ってるんだよな。例えば、この絵描き歌だってそうだろ?

男2: じゃぁ、さっきの歌は何で全部覚えてるんですか!

男1: 全部覚えてるものとそうでないもの。見ているようで、見ていないもの。大事なのはさ、きちんと正確に覚えているかいないかではなく、その時、感じていた心をいつまでも感じ続けようとする気持ちってことだよ。

男2: 全然分からないんですけど・・・。

一ツ木:ま、さぁ、丸かいてちょん、丸かいてちょんだろうが、お豆に芽が出て植木鉢〜、植木鉢〜だろうが、結局は同じってことだよ。大事なのは

男2:  (一ツ木の言葉を遮って)あ!そっか!(絵描き歌を思い出した)

一ツ木: そう!そういうこと!

男2:  ちょっと!一ツ木さん、知っててわざとふざけてたんですか?

一ツ木: 全然分かってないよ、コイツ・・・。

男2:   え?

一ツ木: 丸かいてちょん、丸かいてちょん、丸かいてちょん、丸かいてちょん・・・・。

男1:  (カウンターの上にあったサンタクロースとトナカイの置物をいじりながらホワイトクリスマスの歌を歌っている)

男2:  ?
   

とそこへ走って美里が戻ってくる。


男1:  (ほらねっといった表情で男2を見る)

男2:  あの・・・大丈夫ですか?

美里:  私・・・。

男2:  ?

美里:  私・・・。

男2:  ・・・何か、思い出しましたか?

美里:  去年のクリスマスの夜です。そう、去年のクリスマスの夜なんです。

男2:  そうですか。去年のクリスマスの夜ですか・・・。

美里:  そんなつもりじゃなかったんです。私はただ・・・。私はただ・・・。

男2:  (美里を近くの椅子に座らせながら)落ち着いて下さい。大丈夫ですよ。

美里:  大丈夫なはずないじゃないですか。私がお姉ちゃんを・・・。私が・・・


男1、おもむろにカウンターの上にあったラジオのスイッチを入れる。そこからは先程、美里が聞いた「ホワイトクリスマス」の歌が流れている。美里、男1、2、一ツ木もその音楽をしばらく聴いている。


DJ: 続いてのお葉書ですよ。「こんばんは。マッキーさん。(こんばんは。)私は7歳の女の子です。実は、友達がサンタクロースはいないというのです。本当のことを教えて下さい。サンタクロースはいるんですか?鈴木みちこ。みちこちゃん、お葉書どうもありがとう。そっか、みんなはサンタクロスはいないって思ってるんだね。きっと見たことがないと信じられないんだね。ま、みちこちゃんのお友達だけじゃなく、マッキーもそうだけど、生きてるうちはほんの少しのことしか分からないし、本当のことを全部分かろうとするにはまだまだなんだよ。実はね、みちこちゃん、サンタクロースはいるんだよ。愛とかいたわりとか思いやりとかがあるように、サンタクロースもちゃんといるし、その全てが私たちに輝きを与えてくれるんだよ。もし、その1つ1つが消えてなくなってしまったら、物凄く寂しい世の中になってしまうだろうね。」
     

男1、クリスマスツリーの電飾を灯す。美里、鮮明に蘇る過去。


美咲:(声)待って!美里。お姉ちゃんの話を聞いて。

美里: 言い訳なんて何にも聞きたくない!

美咲:(声)言い訳って思うなら思ってもいいから、聞いて!

美里:(黙っている)

美咲:(声)ごめんね。美里。ちゃんと話せばよかったんだけど、いつ
言えばいいのか、どう言えば美里にちゃんと分かってもらえるか分からなくて・・・。でも、これだけは忘れないで。美里は私の大切な妹、家族だって事。どんなに離れていても、美里は世界一大切な妹だって事。

美里:(黙っている)

美咲:(声)美里・・・。ごめんね。

美里: ・・・。

美咲:(声)必ず、必ず、美里と一緒に暮らせるように、お姉ちゃん頑張るから!

美里: 気休め言わないで!あの時だってそうだったじゃない。お父さんとお母さんがいなくなって、お姉ちゃんだけ栄治おじさんとこに行ちゃって・・・。私、ずっと待ってたんだから。ここで。お姉ちゃんが迎えに来てくれるって、この通りから10年もずっと待ってて、やっと、やっと、一緒にいられるって思ったのに・・・。ずっと一緒にいられるって思ってたのに・・・。

美咲:(声)ごめんね・・・。美里。

美里:(美咲を振り払い)もう、誰も信じない!

美咲:(声)美里!!
     

と、車の急ブレーキとサイレンの音。


美里: 嘘だ!そんなの嘘だ!だって、私・・・。絶対にそんなはずないもの。嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘!だって、私、お姉ちゃんに何も言ってない。何も伝えてない。伝えたい事いいっぱいあったのに何も伝えてない。ひどいよ。何で?ひどいよ。どうして?ねぇ、どうして?

男1: じゃぁ、今から伝えに行きましょう。

美里: もう、伝えられないんです。お姉ちゃんにもう、会えないから・・・。

男2: お願いしてみたらどうですか?サンタさんって年齢関係なく、願ってる人のところにやってくるみたいですよ。お姉さん、そう言ってましたよ。

美里: え?


男1、2、微笑んで美里を見る。一ツ木に合図。一ツ木、倉庫の方へ。


男1: さぁ。

美里: お姉ちゃん、もう一度、お姉ちゃんに会いたいよ。
    

奥の倉庫の方から、一ツ木に連れられた美咲が出てくる。ラジオからは「un forgettabule」が流れている。


美咲: ありがとう。美里。

美里: お姉ちゃん・・・お姉ちゃん・・・お姉ちゃん。

美咲: ありがとう。美里。

美里: (泣いている)・・・・ごめんね。

美咲: ありがとう。美里。

美里: (泣いている)・・・・お姉ちゃん、ホントはね。

美咲: ありがとう。美里。

美里: お姉ちゃん・・・。

一ツ木:さぁ、行きましょうか。(美咲に手を差し出す)

美咲: はい。(一ツ木の手は取らずに自ら歩き出す)

一ツ木:くぅ〜。

美里: 待って!(ポケットから包みを取り出し美咲に渡す)

美咲: (包みを開けて)・・・美里・・・。

美里: お姉ちゃんが、お父さんもお母さんもいなくなっちゃって毎日泣いてた私にくれたお守り。『ここにはね、いつも美里のこと思っているお父さんの心が、お母さん心が、私の心が、美里のこと大好きなみんなの心がいっぱい詰まってるんだよ』って・・・。お姉ちゃんにあげる。

美咲: ・・・美里。

美里: 美里のことを想ってくれてるみんなはお姉ちゃんのことも同じように大切に想ってるんだもん。

美咲: ありがとう・・・美里。
    

男2、美里の書いた書類を渡す。男1、書類にサインをして一ツ木に渡す。一ツ木、美咲を促し一緒に去っていく。ラジオからはDJの語りがずっと流れている。


DJ: 「世界中で誰も見たことがない、見ることができない不思議な出来事って、本当のところは誰にも分からないんだよね。あの、カラクリ時計。中を開ければ、どうやって動いてるのか分かるよね。でも、不思議な世界は、どんなに強い人でも、どんなに凄い機械でもこじ開ける事のできない扉なんだよ。無邪気に笑う心とか、本を読んだり、絵を描いたり、歌を楽しむ心とか、愛とか、何かを大切に思う心だけが、その扉を開けることが出来るんだよ。みちこちゃんの想いを込めて、サンタクロースにお願いしてご覧!嘘じゃないかって思っているそのお友達みんなのところにも、きっと素敵なサンタクロースがやってきてくれるよ。さぁ、今日からまた、みちこちゃんの素敵な冒険の始まりだよ!たくさんの輝きで心の扉を開いていこうね!」


曲がしだいに大きくなり、暗転。

次週で最終話です