「日本男子を育てる」,『致知』2003年6月号「致知随想」より

大維志を育てていますが、この随想を読んで改めて子育てを考えました。      
中山美恵子(講道学舎常務理事)


             


 昭和三十九年の東京五輪──。
 誰もが金メダルを独占するだろうと思っていた日本柔道が
 オランダのヘーシング選手に敗北を喫しました。
 
 その時、
 「これではいかん。もう一度何としても
  強い日本男子を育てなければ」
  と一人の男が立ち上がりました。

  それが横地治男、私の父です。


 父は職業軍人として満州で終戦を迎え、
 復員後は実業の世界に身を置きました。
 しかし、東京五輪での柔道の敗北は
 日本男子として遺憾の極みだったようです。
 父だけではありません。
 
 作家の井上靖先生、元日商会頭の永野重雄先生や
 元日経連会長桜田武先生ら、
 高専柔道で汗を流した方々も思いは同じ。
 先生方に励まされ、父は昭和五十年に柔道の私塾
 「講道学舎」を創設したのでした。

 あれから約三十年。
 明治生まれの父に子孫のために
 美田を残そうなどという思いは毛頭ありません。
 
 ひたすら国のため、そして戦地で亡くなられた
 戦友たちへの弔いのために、
 もう一度強い日本男子を育てたい一心で、
 心も体もお金も自分の持てるものは
 すべて講道学舎へ捧げてきました。
 
 「生活をともにせねば弟子は育たない」が持論の父は、
 道場の他に寄宿舎を設立。
 
 生徒たちは中学から高校までの六年間を
 親元を離れ学舎に寄宿します。
 
 そうなると当然食事などの生活面の世話をし、
 心をケアする母親役が必要になり、
 そこで白羽の矢が立ったのが私でした。
 
 「おまえならできる」との父の一言で、
 主人や子どもたちとともに移り住んだのです。

 私が寮母兼母親役として
 数多くの生徒たちを見てきてつくづく感じるのは、
 柔道はどこまでも奥が深い競技だということです。
 
 畳の上に立てばこれまでどんな日常生活を送ってきたか、
 言うなれば自分がどんな人間であるかがすべて
 顕(あらわ)になるのです。

 わが学舎を巣立った生徒に、
 バルセロナ五輪で金メダルを取った
 古賀稔彦と吉田秀彦がいます。
 
 彼らの生活振りは、やはり一目置くところがありました。
 私は古賀が柔道着を洗濯機で洗っているのを
 見たことがありません。
 
 柔道着を何よりも大切にし、いつも丁寧に
 たわしで手洗いしていました。
 
 また、休日も遊ぶより次の稽古のために休養に充て、
 いつも夜十時には部屋の電気が消えるような生活を
 送っていました。
 
 吉田は、多くの生徒が大学進学が決まって
 ほっと一息つく高校三年の冬、
 「妥協しない、妥協しない」と言って
 率先して朝稽古に向かっていました。


 柔道は、心技体の三つが揃わなければ、
 真の強者にはなれません。
 
 私は心技体のうち、生徒たちの心と体の育成という
 非常に大きな役割を担っていますが、
 いつも心がけていることは
 ありのままの自分で生徒たちと真正面からぶつかること、
 そして公平であること以外にありません。

 生徒はみな、思春期を迎えた多感な少年たちです。
 特に中学一、二年生の頃は
 人間としての自我が芽吹く時期で、
 そのエネルギーたるや凄まじい勢いです。
 
 中にはエネルギーを持て余し、ツッパってみたり
 不良の真似事をしてみたりする子も出てきます。
 反発し、時にすごい勢いで私に
 歯向かってくることもありますが、
 その時私は彼らの言い分に最後まで耳を傾けます。
 
 真っ赤な顔をして私に思いをぶつけるだけぶつけると、
 すとんと肩を落とす瞬間があるのです。そこで、
 
 
 「君の考えはわかった。
  ママさんにも考えがあるから聞いてくれる?」
  
 と言ってきちんと話すと、大抵素直に聞いてくれます。
 それを全部ぶつけないうちに抑えつけてしまうから、
 子どもたちは不満が残ってますます反発していくのです。
 
 こうして中学一、二年生のうちに
 しっかりと軌道修正しておくと、
 高校生になった時には進んで
 私を手伝ってくれるから不思議なものです。

 彼らのエネルギーを正しい道へ向け、
 父と生徒の掛け橋となる。
 そして全体を一つの方向にまとめるのが
 母親役である私の役目であり、
 さらには女性の役割だと思っています。

 日頃男の子に囲まれて暮らしていると
 つくづく感じますが、男子は母性無くして育たないのです。
 いま、世の母親は過保護か無関心かの二通りで、
 男子を育てません。
 
 息子を猫可愛がりし、
 「あれ食べる? これ食べる?」と
 あれこれ世話を焼きますが、
 これでは子どもは「うん」と「ううん」しか話さず、
 自分で考えて行動することができません。
 
 また、自分の幸せばかりを追求し、
 母親が夫や息子に無関心だと、
 彼らは頼りにされていることを実感できず、
 いつまでも父性が育たないのです。

 たとえ十二歳の生徒でも、
 「ママさん困っているんだ。どうしようかな」と相談すると、
 「僕がやります」と言って力になってくれます。
 
 男子は女性が信じて頼ることで、初めて
 「母ちゃんを喜ばせたい」とか、
 「俺がこの女を幸せにするんだ」という父性に目覚め、
 それが原動力となって社会で活躍していくのです。

 世の中では、女性が家庭にいて夫と子どもの
 中間子でいることが、何か人間の権利を奪われたように
 言う人もいますが、とんでもないことです。
 
 中間子の役割がどれだけ大きいかをもっと認識すべきです。
 中間子次第で家庭は円満にもなり崩壊もするのですから。

 講道学舎では、私が父と生徒たちの中間子です。
 みんなが気持ちよく生活し、
 本当に強い日本男子を育てるため、
 しっかりと支えていきたいと思います。

 
  • コメント(全26件)
  • トロル 
    9/4 16:34

    男の子をきちんと育てる 社会に貢献できるように育てる
    2人の男の子を育ててる私には毎日が勉強です

  • ゆいちゃ☆天竺SL (in率激減かも、イベ×) 
    9/4 17:05

    猛烈に感動しました! 正にその通りですね。 ご教授ありがとうございました

  • 旅人 
    9/4 17:18

    人として一番大切な事が書かれています
    人が人間としての教育を受けなかったら、畜生以下になって仕舞います。国が乱れは教育の乱れから起こっています。
    特にスポーツを通しての人間形成には大賛成ですね!
  • ピノキヨ*余裕ナシ子* 
    9/4 17:33

    木下先生が紹介する書は考えが古くて男尊女卑に感じることが多々あります。

    今回もまた然り。

    中間子が必要なのは分かりますが、それって

    『家を守るのは女の仕事』って言ってるようなもな。

    だったらもっと女性を大切にして下さい

    てか、これは木下、ジャガー横田家にあてはまりますか??

    どう見ても木下先生は仕事に明け暮れ、子育てはジャガーさんに任せっきりな印象があります
  • ルーシア(o^∀^o) 
    9/4 18:03

    父親が強くならないとダメだよ。今の時代は女性が強い。どうなんでしょ

  • xx早押しxxグリコ 
    9/4 18:13


    漢の中の母ちゃんがジャガーさんの中の少女を育てそして。 ジャガーさんの中の父ちゃんが
    よくぞ巡り遭ったお二人ですねッッ。
  • リュカ(アプリ無理) 
    9/4 18:19

    一目はおけるご意見ですね

    ただ我が家には今後、男の子が産まれようとも当てはめることのない、意見です
    子どもの話をしっかり聞くは母親だけでなく父親にも必要な事ですし、自我を持たせる事は家族の問題ではないですか?

    男は働いて稼ぎ、女は家で育児。
    育児も立派な仕事ですが、兼業主婦はいけないと言ってるように聞こえます。

    それを重んじると言うことは、先生は奥さんに『専業主婦になれ』と要求されたいんですね。
  • 火影§日本を取り戻す! 
    9/4 18:52


    こんばんは(^-^*)/


    以前のテレビのドッキリで見たように、タイシ君は強い子だと思いますよo(^-^)o

    強くて優しくて…。

    先生とリミさんの子育ては素晴らしいと思います。


  • お蜜柑。 
    9/4 18:56

    ↑前もその前のかたもネガティブですね
    こにも女は家に… なんて書いてないでしょ
    時の日本スポーツ界の努力を書いてるだけでしょ。まったくもうこれだから鬱憤の溜まってる女は…

    ただ、世界は広いし腕力では外国人も強いですよ。


  • ミッキー  
    9/4 18:56

    耳がいたい
    して、奥が深い 内容です
    日本の 御家芸である 柔道ですが、そんな 歴史があったのですね。
  • あやたつままもう限界 
    9/4 19:26

    中,息子がいるので、しっかりと育てたいと思う事ばかりでした
    ゆくゆく親元を離れ、1人で生きていくであろう我が息子…社会に出て恥ずかしくないように、躾・最低限の一般常識を身につけさせようと思いま

  • サックサクなトローチかじって風邪療養中 
    9/4 20:27

    今晩は


    少し内容とずれるかもですが、書かせてくださいね。

    私はまだ小2までしか子供は育ててませんが、我が子や幼稚園の時から見ているお友達の成長だったり、環境の変化によるそれぞれの反抗や性格の変化をみるにつけ、これからの本格的な反抗期やトラブルを思い悩んだり、いじめと喧嘩の見識認識の違いからくるそれぞれの親の考え方とかで、いちいち悩んでいます。

    私は自分の子にもお友達にもちゃんとわかる範囲でお話をして解決の糸口ぐらいは見つけてもらえたら…なんて思っていましたし、できるだけその様にしてきました。

    ですが娘をいじめてた子とその親御さんに、私も娘もお話をして解決できたと思ってたのに、その子がその私の言動をうまく使い、裏でまた娘のいじめをしてるのを発見した時には恐ろしさが出てきました。

    昔の子は悪い道にいっても誰か一人にはその気持ちをよくも悪くもぶつけて、相手も真正面で受け止める機会があったとは思いますが、今の子はその気持ちも出す事すらせず、日常の予定よろしく平気で人を傷つけるので、私もそんな子にどうしていこうかと悩んでいる所です。

    子育ては難しいですよね。

    ただ木下さん
    (先生と呼ばないのには私なりの思いがあり、あえてきのしたさんで)
    のこのブログでかかれていた方の子育て理論は、なんとなくですが共感できました。
    (時代がその当時と変わってきたので)

    この様にぶつかりながらの子育ては大変ですが、できる様になるべく精神的にも強くなって努力していけたらなと思いました。

    またブログ見に来ますね。

    ※たいし君は赤ちゃんの時からよくテレビで拝見してました

    また番組でたいし君のコーナーができたらいいなと思います
  • 香澄(多忙) 
    9/4 20:33

    男性には母性が必要…。

    なるほどと思いました。

    高齢の父が娘の私を必要としているので、しっかり支えてあげようと思います。
  • よし 
    9/4 20:39

    先生、こんばんは


    同感で



    中国の古典「中庸」の最初に、

    天の命これをと謂い
    性に率(した)がうこれを道と謂い、
    道を修むるこれを教えと謂う。


    とあるように、「性」とは
    が人に与えた役割やはたらきであり、それに気付くよう人生を修養していくことが大切ですね



    僕自身、性(個性)とは、自分勝手にわがままをすることではなく、今生きている中において、自分が果たしていく役割を見つけ、それをとことん実践していくことと理解していま



    戦後の誤った学校教育で、「個性」という言葉が間違って教えられてきたのは悔しいですね。
  • 花 最近お疲れ気味なの(>_<)m(_ _)m 
    9/4 23:26

    平等は大切ですね(o^∀^o)
  • ゆう 
    9/5 00:18


    こんばんは。素敵な日記を読ませていただきました。

    心のケア…母性…

    他人事と思えない内容に、ドキッとしました。

    というのは、私が今 片思いしている相手が仕事人間なんですが、
    大分前に聞いた、彼の 「俺にも妻がいれば。家庭を大事にしたい。」ってつぶやきがすごく印象的で。

    仕事はバリバリでも人間的には不器用な少年なんです

    そんな彼の言葉を、
    思い出すたびに愛おしくなるんですよね(^皿^)


  • はいじ 
    9/5 06:08

    子育てって ほんと 難しいですね。今だに 分からずまま 娘2人は成人しましたが 今だに 結婚しても 関わりながら 孫の子守りをして 孫はどうなって行くんだろう
    厳しい世の中を生きて行くのに大丈夫なのか心配です。いじめも ずっと昔からあり ずっと無くならないですね。
  • おれんじはぁと†一期一会† 
    9/5 06:29

    母親…



    大事です。






    継子が中3
    中1
    小5の時に私が母親になりました

    未だに問題ばかり起こします。


    伝わらない、繰り返す、反省は浅い…

    真っ正面から体当たりし続けてきましたが、疲れました。



    いつも思います。

    なぜこの子達の母親は、この子達を手放してしまったんだろう…

    なぜ、意地でも離さない選択が取れなかったんだろう



    母親不在の空白の数年間は、この子達にとって、とても大きなリスク以外の何物でもありません。
  • ミライ 
    9/5 06:42

    自分では読む機会ないけど、こうやってきのぴーさんが紹介する事で読む機会を貰ってます

    ありがとうございます。
  • ゆずる 
    9/5 07:20

    素晴らしい話ですね。女性は中間子たる立場に徹することに誇りを持っていいということです


    ただ、なかなか評価されにくい立場にあることも事実
    女性はどう在るべきかを 考えさせられました
  • ウサパンヌ 
    9/5 14:04

    とても胸打たれました。





  • メリー 
    9/6 10:13

    反省する事たくさんありま
    供を抑えつけては いけないって
    の子供にも母親は 大事な存在です また色々教えて下さい
  • もりんご 
    9/6 22:43

    子育てについて改めて考えさせられました。
    明日から子供との接し方を変えてみます
    完璧にはできないから、少しずつだけど
  • 桜リオmama(次女9ヶ月)ゲーム× 
    9/6 23:34

    先生 いつも有難う

  • 風車 
    9/9 19:31

    男の子2人の母です。とても考えさせられる文章でした。ありがとうございます
  • りんご 
    9/10 21:34

    私も男の子育てています。先生のおっしゃる通りです

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