「ドクター落語で百まで生きる」、『致知』2007年2月号「致知随想」より

今日は、医師として人間として大先輩の先生のお話を紹介させていただきます。僕も、勉強させていただきます。


      稲垣元博(芝病院名誉院長)


            
「あなたも百まで生きられる」。


──医師・稲垣元博は、この講演を終えた後、
落語家「稲垣亭三河」に変身します。

人呼んで、ドクター落語。


演目はすべて創作で、
がん予防や禁煙をテーマに十数編を数えます。

十八番の一つである「オッパイは成功のもと」は、
脳卒中で右半身の麻痺したおじいさんが、
入院中のおばあさんの胸に触りたい一心で
リハビリの猛特訓に励むという話。

いずれも患者の方とのやりとりの中で得た
学びや実話に基づいています。

面白おかしく健康の秘訣が学べるとあって、
あちこちから声をかけていただき、
過去五年間で四百回以上の講演会をこなしてきました。


着物や袴、大量の資料などを詰め込んだ十五キロの荷物を持ち、
北は東北から南は九州まで年中飛び歩いています。

今年、八十八歳になるこの年で我ながらよくやるなと思いますが、
皆さんの前でお話をさせていただくと、
こちらも爽やかな気分になって
一切の疲れが吹き飛んでしまうのです。


       * *


私がドクター落語を始めたのは、約四十年前のことです。
病院の検査技師向けに、夜間の講義をしていましたが、
最前列の学生までが机に突っ伏して寝てしまう始末。

これは教える側の熱意が足りないからだ、と
いろいろ手を尽くした末、考えついたのが、
落語調のユニークな話を織り交ぜ、
皆を笑わせて眠気を覚ますという方法でした。

やがて噂を聞きつけた新聞社から
「交通事故の話を落語で書いてくれ」と依頼がありました。

しかし本物の落語を見たのは一度きり。
四苦八苦しながら原稿を書き上げたところ、
今度は「肝臓の話を落語で」と
組合の機関紙から原稿を頼まれました。

これはいよいよ本気で取りかからねばと落語全集を手に入れ、
なるほど、落語のオチには十六も種類があるのだな、と
真剣に勉強を始めるようになりました。


そんなある日のことです。

病院の組合の委員長が
「先生、患者さんたちのクリスマス会で落語をやってください」
と言うのです。

書くには書いたことがあるが、
落語なんてやったことがないと断ると、

「いえ、うちの患者さんたちだから、
 どんなに下手でも笑ってくれます」
 
と譲りません。しょうがない、何とかするかと苦しみの末、
一本の噺をこしらえました。

そして本番当日、噺のオチを

「皆さんには楽しい日かもしれませんが、
 あっしにとっちゃクリスマスどころか、大変クルシミマス」
 
としたところ、大受けして万雷の拍手。

その中に


「先生の話を聞いて、寿命が六年延びました」


と褒めてくださったお年寄りがいました。
重症状態だった患者の方です。
お世辞にしてもずいぶん大げさなことを言うなと
思っていたところ、本人は日を追うごとに
みるみる元気になっていき、
とうとう退院を果たされたのです。

そして言葉の通り六年間長生きされ、
これには私のほうが驚いてしまいました。


笑いというのは、人間にとって
非常に重要な意味を持っていると感じたのはこの時です。
それ以降、看護師の結婚式や医師会の文化祭があるたびに、
自ら進んで落語をするようになりました。


       * *


現在、「笑い」は、がん予防やストレス解消、
老化防止につながるなど、様々な効能が報告されています。
まさに笑いは健康のもとであると言えるでしょう。

私の場合は学生を眠らせまいと苦心の末、
考え出したものでしたが、
落語を通して得られる笑いのテクニックは、
いまでも週一回行っている診察の際にも大いに役立っています。

患者の方はそれぞれに肉体的、精神的に深刻な悩みを抱え、
病院を訪ねてこられます。

その沈んだ気持ちを笑いで吹き飛ばすと
表情が徐々に明るく変化していき、中には
「先生の顔を見ただけで病気が治っちゃった」と、
薬を忘れて帰っていく方もいらっしゃいます。

「それじゃ全然商売にならないよ」と言って
こちらも笑いますが、医者は威張っているのではなく、
おもしろく話をする術も心得て、
真に患者の側に立った医療を
心がけていかなくてはならないと思います。

最近の世の中は、医療費を二割から三割に増やしたり、
介護保険料の負担を重くするなど、病人や老人、
つまり社会的に弱い立場にある人が
どんどん暮らしにくくなってきていると感じます。

私がドクター落語とともに行う
「あなたも百まで生きられる」の講演は、
六十年以上にわたる医療活動の中、
患者の方から教わった長寿の秘訣を集大成したものですが、
その最後を私はこう締め括ります。


「弱い者いじめをするいまの政治のあり方を
 年寄りの力で跳ね返し、私たちが安心して暮らせる
 世の中をつくっていかなければなりません。
 
 だから皆さん、六十、七十で死ぬのは無責任です。
 何としても百歳まで生きなきゃいけません」と。


講演をお聞きになる皆さんには


「私の言うことを守っていれば、必ず百歳まで生きられますよ」


と常々話をしてきました。
私自身が百歳まで生きることでその仮説を実証し、
誰もが安心して暮らせる世の中をつくるため、
今後も変わらぬ活動を続けていきたいと思います。


 
  • コメント(全15件)
  • ナデチャン 
    8/30 11:59

    ドクターと落語結びつかな

  • ひーちゃん 
    8/30 12:15

    ドクター落語、拝見したくなりました

  • 慈崢(じそう)ゲームお誘い×m(_ _)m 
    8/30 12:31

    脊髄小脳変性症15年目の妻も、笑いがあれば長生きできるのですか?
    妻は、46歳です。
    あと54年あります
  • 《ホッと一息》 
    8/30 12:32

    ストレス発散に…(笑)


    よく
    〜とりあげられていますよ

    ガンの予防に本当に、すぐれた効果があるそうですね

    楽しいドクターのお話を
    載せていただき、ありがとうございまし


    キノピー先生

  • 香澄(多忙) 
    8/30 12:42

    ドクター落語、面白そうで聞いてみたいです。

  • 紫水晶@協力多謝。時々男装。寝落ち魔。 
    8/30 14:34

    素敵な逸話を
    ありがとうございました

    笑って感謝し
    あの世へ参りたいで
  • ひまわり*今までありがとう 
    8/30 14:41


    笑いって大切ですよ
    悲しい時つらい時こそ嘘でもいいから大笑いなさいと言われたことありま
    落語っていうのは治療者の話術も磨くのかな?
    患者さんには来ていただくからにはやっぱりストレス発散してもらって帰っていただきたい
    私も一つの方法として落語をかじっみよ


  • にゃんまげ★韓&韓884★ 
    8/30 15:22

    こんにちは


    落語の笑いは、人間性善説がベースになっていて謙虚さや暖かみがあるか
    なので
    、短大時代落研にいた私は感じています


    ジャガーさんと先生
    お姿も、落語の人情噺をそのまま体現しているようでいつもホノボノした気持ちになりま

  • よし 
    8/30 15:30

    先生、こんにちは

    いつも素敵な話を感謝しています


    高柳和江さんが書かれた
    「笑いの医力」という本
    いいですよ



    良かったら読んでみて下さ

  • イソジン@カメラマン? 
    8/30 16:41

    なるほどー。日本人が長生きなのは、お笑い文化と関係があるのかもしれない。

  • ゆきっぴ 
    8/30 23:48

    笑いは大切ですね。キノピー先生もジャガーさんとこれからも沢山テレビに出て笑わせてくださいね

  • 桜リオmama(次女9ヶ月)ゲーム× 
    8/31 00:05

    素晴らしいですね


    私も最近 致知買いたくて仕方ありません笑

    お高いのでしたっけ

  • イソジン@カメラマン? 
    8/31 13:23

    先生がジャガーに殴られているのを見るのが何よりの健康法です(^^)
  • 42 
    9/1 10:28

    笑うことは良いことなのは科学的に実証されてきてますよね
    落語の世界は独特で私自身良く理解できていませんが、笑いで心身共に健康になるなら、お財布にも優しいし、個人レベルで続けられる健康法です

  • もりんご 
    9/6 22:40

    笑いや笑顔って重要ですよね。
    健康にもだし、自分自身にも。

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