どんなアンナ?

「ドン・ジョヴァンニ」の「ドン」というのは、もともとスペインで、位の高い貴族や聖職者のファーストネーム(姓ではなく名の方)につけられていた尊称です。

モーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」はイタリア語で書かれていますが、舞台はスペインです。ドン・ジョヴァンニはスペイン語で言えばドン・ファン。「仮面ノリダー」で岡田真澄さんが演じたファンファン大佐ではありません(…古い)、17世紀の伝説上のモテ男です。かなり身分の高い貴族だったわけですね。だから、特に身分の高くない女性たちは言い寄られればイチコロだったのかもしれません。

さてスペインとイタリアは近いですが、イタリアでは貴族をドン・◯◯とはあまり呼ばなかったようで、イタリアでドン・◯◯と言えば、特定の聖職者かマフィアの親分(『ゴッド・ファーザー』でもドン・コルレオーネとか呼んでいましたよね。コルレオーネは姓だけど)です。多分これが伝わって、日本でも陰の実力者みたいな人のことを「◯◯界のドン」と言ったりしますね。

前置きが長いですが、その「ドン」の女性版が「ドンナ」です。正確に言うとスペイン語では「ドーニャ」だそうですが、イタリア語で書かれたオペラの中では「ドンナ」。つまり私が演じるドンナ・アンナも、かなり身分の高い貴族の女性です。

ドンナ・アンナはオペラの冒頭でドン・ジョヴァンニに乱暴されそうになり(いやまぁ相手はかのドン・ジョヴァンニですから、本当に乱暴だったのか何らかの合意がなされたのか、永遠に謎ですけどね)、助けに来たお父さんがドン・ジョヴァンニに刺されて死んでしまうので、単純に言うとオペラを通じて「父の復讐」に生きています

アンナは部屋に忍び込んで来た男の顔を見ていないので、初めは復讐すべき相手が誰なのか知りません。オペラ1幕の中盤に「ドン・ジョヴァンニこそその男である」と気付く場面があって、そこでなかなかドラマティックなアリアを歌うことになっています。

通常の演出だと、ドン・ジョヴァンニがそこでパッとマントを羽織るとか、あるいは急に声をひそめるとかして、「あ!あのマント(声)は昨夜の…!」みたいな感じで気づく、というパターンが多いのですが、何から何まで普通ではない今回の太田麻衣子版「ドン・ジョヴァンニ」。お客様も思わず笑ってしまうであろう方法で、アンナは犯人に気づきます。

いやお客様はおかしかったらどんどん笑ってくだされば嬉しい限りですが、しかし。私はその直後に壮大かつ大変シリアスなアリアを歌わなければならない。笑っている場合ではないのです。この演出プランが決まって以来、この公演の私の最大のミッション(というより試練?)は「アリアの前に笑わない」になりました。とほほ。

今のところ成績は2勝10敗ぐらい。大きく負け越しています。うー。でも笑ってはならない緊張感により集中力が増して、いいアリアが歌えたりして?そう信じたい。

私が冷や汗をかきながら笑いをこらえるほどの、いったい何が舞台上で巻き起こっているのか!それは明後日から、北とぴあ・つつじホールで目撃してくださいね。詳しくは「Laboオペラ・絨毯座」で検索!明日はいよいよゲネプロです。