もうすぐ「天守物語」

またまたご無沙汰いたしております。にっぽん丸を下りてからの私は、迫り来る風邪やインフルエンザの恐怖とたたかいつつ、二つのオペラの稽古に勤しむ日々でした。

一つは、もう今度の日曜日にせまった2月3日(日)、新国立劇場中劇場にて公演予定の「天守物語」、もう一つは、3月8日(金)に池袋の東京芸術劇場プレイハウスにて公演予定の新作「君と見る夢」です。

二つとも日本の作品です。私は、今までの仕事の中でも日本オペラをやらせていただく機会の多かった方だと思いますが、日本の作品を2本同時に稽古するというのは初めての経験です。

一口に日本オペラと言っても、私が演じるのは、かたや姫路城天守閣に棲む美しき妖怪、かたや結婚に悩む現代日本の普通の女の子、28歳デパート勤務。…笑っちゃうくらいキャラクターが違います。一方は人間ですらない。

物語の設定だけではなく、この二つの作品は音楽の作りも全く異なります。水野修孝さん作曲の「天守物語」は、ほぼ全編が無調性(いわゆる「現代音楽」?と言うと伝わるかしら)で書かれています。まぁそもそも泉鏡花の「天守物語」で、すごくメロディックな音楽というのもイメージしづらいですが。一方、吉岡弘行さん作曲の「君と見る夢」には、どこかで耳にしたような(と言うと失礼か?)、親しみやすい、楽しいメロディーが溢れています。

音楽もドラマも緊張と弛緩の繰り返しで、その按配というか、持って行き方や落差やタイミングの妙で見る者聞く者は感動するのではないかと思うのですが、それで言うと「天守物語」は「緊張」の度合いの高い作品、一方「君と見る夢」は「弛緩」の度合いが高い作品、という感じでしょうか。

緊張感の強い音楽というのは、お客様も緊張すると思いますが、演じる側も緊張します。そのお互いの緊張の中にこそ喜びや感動があります。役者の凄味、だなんてそう簡単に身につくものではありませんが、そういうものを要求されるのは演じる者にとって醍醐味でもあります。

一方、メロディーに溢れた作品は、お客様にも肩の力を抜いて楽しんでいただけると思いますが、演じる方も肩の力を抜いて、音楽に身を任せることができます。何と言うか、メロディーに乗せられて、おだてられて役柄がふくらんでいく感じ。

あまりにも対照的なので、それぞれの作品の良さを倍に感じつつ、楽しく苦しみながら二つの作品を行き来していた私ではありますが、たまーに、考え込んでしまう瞬間もあります。「芸術とは何だろう?」と。テーマが壮大すぎて笑いそうですが、いや真剣に考えるのです。

オペラに限らず、音楽でも演劇でも映画でも、絵画でも写真でも書でもテレビでも。見ると、「おもしろかった」とか「感動した」「美しかった」「考えさせられた」あるいは「つまらなかった」「意味がわからなかった」などなど、様々な感想を持ちますよね。「芸術性」というのは、その中のどのあたりの尺度のことなのでしょうか。

「天守物語」は、初演以来20年以上にわたって、日本の主要なプロダクションによって舞台にかかり続けている、ある程度評価の定まった「芸術性の高い」作品と言えます。「君と見る夢」の方は、何しろ初演ですから評価はまだ未知数。

芸術とは?なんて問いに答えは出ないし、また私はそれに答えを出すべき立場にもありません。私は歌手ですから、作品の中にある「芸術性」かどうかはわからないけど何かキラッとした大切なものを、見つけだして、できるならそれを磨いてもっとキラキラにして、お客様に届けるのが仕事です。

わかってはいても、時に答えのない難問に頭を抱えたりします。「100年も200年も残ってきているんだから、それは名作なんです」というヨーロッパの作品と違い、日本のオペラはうんと新しくて、言うなれば玉石混交だから、やりながら余計なことを考えてしまうのかしら。

さて、なんだかんだ言ってるうちに、「天守物語」は明日からいよいよ劇場入りです。まずは、冷たく熱く、一本筋が通って、それでいて限りなく妖艶な、泉鏡花の世界に没入してきます。「この天守は、わたしのものだよ」。

チケットまだあります。2月3日(日)15時より、新国立劇場中劇場です。是非!

(財)日本オペラ振興会チケットセンター
044-959-5067
http://www.jof.or.jp/

 
  • コメント(全2件)
  • 美夜 
    1/30 22:17

    芸術とは、ですか…


    答えを出すのは難しいです


    とりあえず、風邪にお気をつけて、日曜日がんばってくださ

  • Kaiser 
    2/4 01:11






    一般的には


    音楽家が“芸術家”と成っ


    のはBeethoven以


    と言われて居ますが


    じゃあBachの無伴奏曲等、


    是が芸術で無くて


    一体、何なのだ?


    と言う事に成ります


    私は、


    極常識的庶民感情に根差し


    起承転結、勧善懲悪、ハッピーエンド


    等の、


    老若男女問わず楽しめる物


    “娯楽”作品


    深い思想哲学の込められた


    高い精神性を持つ作品が


    “芸術”で有





    分類します!!
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