コインランドリーおばさん

今はナポリにいます。明日、ここを発って再び北京経由で(ジャスミン茶が恋しい)東京に帰ります。

一週間ほど前、洗濯をしたくてホテルのおねえさんに「洗濯機借りられますか?」と聞いたら、ホテルに洗濯機はないけど近くにコインランドリーがある、とのこと。

さっそく洗濯物をたくさん抱えて行ってみたところ、おねえさんが教えてくれた場所にちゃんとコインランドリーがありました。

ありましたが。中には3台の洗濯機と2台の乾燥機、のほかに、ふとんを敷いてその上にすわって赤ちゃんを抱いて、派手なピンクのTシャツを着た太った黒人のおばさん(いやもしかしたら私よりずっと若いのかも)が。

この人はいわゆるホームレスのような人で、このコインランドリーに住みついているのだろう、と解釈し、普通に空いていた洗濯機の蓋を開けて洗濯物をつっこみ始めたところ、おばさんがけたたましく何か言い始めました。

何を言ってるか全然わからなかったし、家がないだけでなく頭も少しおかしい人なのだろう、と思って構わず洗濯の準備を続けたところ、「もう終わり!8時!明日!明日!」…だんだんおばさんの言ってることが理解できてきました。なんか変なアクセントだけどイタリア語だぞ。

時計を見ると7時半。コインランドリーの営業時間が8時までで、今洗濯を始めちゃうと途中で閉まっちゃうよ、ということか?「8時で閉まるんですか?」

「そうそう、明日は9時に私ここに来るから。洗濯物置いていけば明日の朝洗っといてあげるよ」。こ、この人はコインランドリーの従業員!?それとも勝手に居ついて洗濯機の番をしてあげて小銭を稼いでいるのか?

風貌からして明らかに後者。そんなに悪質な人にも見えないけど、とても洗濯物を預けていく気にはなれなかったので、「じゃー明日また来ます」と言ってホテルに引き返しました。

翌朝。ドキドキしつつ再びコインランドリーに行ってみると、やっぱりおばさんがいました。今度は赤ちゃんはいなくて、おばさんだけ。緑のTシャツに着替えているところを見ると、どうやらここに住みついているわけではなくて他に家があるもよう。

私が入っていくと、「チャーオ!私がやる?それとも自分でやる?」そもそもコインランドリーって自分でやるものだし、私はてっきりこの人は勝手に洗濯を手伝ってチップをもらっているのだろうと思っていたので、もちろん「自分でやります」と言って洗濯機に洗濯物を詰めこみました。

7キロ以内は5ユーロ、という値段だって昨日ちゃんと見て、2ユーロ硬貨を1枚と1ユーロ硬貨を3枚、ちゃんとくずして持ってきてあるのです。それをコイン投入口に入れようとしたところ、おばさんが「50セント、持ってる?」

きたきた、チップの要求です。でも彼女に手伝ってもらわなかったから50セントでいいのか、なかなか控え目な人だな。昨日閉店時間も教えてくれたし、喜んで、と財布にあった50セント硬貨を1枚渡そうとしたところ。

「違うわよ!この機械、50セント硬貨しか入らないの。洗濯代は5ユーロだから、10枚。持ってる?」

…持っているわけがないではありませんか。だいたい、もし日本に500円のコインランドリーがあったとして、50円玉10枚しかダメだなんて、そんなのすぐに潰れます。

おそらく私が「あり得ん!」という顔をしていた間に、おばさんは持っていた50セント硬貨のじゃらじゃら入った缶からさっさと10枚出して、私の洗濯機を動かしてくれました。

「ハイッ。5ユーロ。お釣りもあるよ。」あ、ありがとう、と言って私は握りしめていた5ユーロをおばさんに渡し、しばらくぼーっと廻り始めた洗濯機を見つめていました。

その間も、後で洗濯物を取りにいった時も、おばさんはにっこり笑っているだけでチップなんか一銭も要求しませんでした。

何だったんだろうあの人。今も分かりません。実はコインランドリーの経営者だったりして?コインランドリーにしては5ユーロは少し高いので、親切なおばさんつきのコインランドリーだったのかな?

うーん。たしかに親切なおばさんではあったけど、最初の登場にパンチがありすぎます。おばさんつきのコインランドリーを経営するなら、もうちょっと見るからに優しそうなおばさんにしたほうが…。