ローマのジュリアーナ

今回のイタリア(ときどきスペイン)滞在はローマからスタートしたのですが、北京経由で夕方遅くローマに到着する予定だったので、ローマで最初に泊まるホテルを予め Booking.com で予約して出かけました。

ホテルの名前は「アウグスト・インペラトーレ・ルームズ」。アウグストゥス帝のお墓の近く、スペイン広場やトレヴィの泉からも近い便利な場所です。

事前のメールのやりとりで「到着が22時以降になる場合は受付に人がいないので、ホテル入口を開ける暗証番号を教えますから申し出てください」というようなことを言われ、私は遅くとも21時には着けそうだったので「暗証番号は必要ありません」と伝えてありました。まぁ、今考えればそれが迂闊だったのですが。

北京乗り換えを無事にやり遂げ(モスクワ乗り換えよりは断然快適で、北京空港で飲んだジャスミン茶がべらぼうに美味しかった)、幾分安心してホテルの住所付近までたどり着いた私でしたが、書いてある住所の通りを何度行ったり来たりしてもホテルが見つからない。

これまで、イタリアの一つ星や二つ星のホテルにもたくさん泊まりましたが、一応みんな、小さくともホテルとわかる看板が出ていました。アウグスト・インペラトーレ・ルームズはそれが出ていなかったんですね。

明らかにその番地と思われる場所に建っているのは、普通に人が住んでいるマンションのような建物。でも番地からしてそこしかないので、よぉーく見てみると、インターフォン(イタリアの集合住宅のほとんどはオートロックで、入口に全部の入居者のインターフォンがズラリと並んでいます)の一つに小さぁーく「Augusto Imperatore Rooms 1° piano(1階)」と出ていました。

やっと見つけた、と思ってピンポンすると、ガチャッと順調に入口が開きました。1階に上がってみると、普通の人のお家が並ぶ同じ扉の一つに「アウグスト・インペラトーレ・ルームズ 暗証番号を押してね」と書いてあります。着いたのは22時よりずっと前だったので、私は誰か受付に人がいると疑わず、暗証番号(知らないし)を押すことなく自信を持ってピンポーン、しました。

…が。何度ピンポンしても、ドアをドンドン!と叩いても、反応がありません。暗証番号、早く着くならいらないって言ってたじゃん!苦しまぎれに Booking.com の予約番号をやみくもに押してみたりして。

予約したホテルの扉の前まで来たのに入れないなんて!困り果てた私は、とりあえず「ホテルの連絡先」に電話してみることにしました。この番号がまた明らかに携帯電話で、なんともあやしい…。

かけてみると案の定、何度呼んでも相手は出ず、しばらくして「TIM(日本で言うドコモのような、メジャーな携帯電話会社)留守番電話サービスです。ピーッという音の後にメッセージを入れてください」。少々頭にきていた私は、イライラや疲れや絶望を留守番電話にぶつけました。

「今夜予約してる者ですけど、今日本から着いて扉の前にいるのにホテルに誰もいません。一体どうすればいいんですかぁー!!扉を開けてくださーい!」叫んでみたものの所詮これは留守電なので何も解決しません。

さて、扉が開かないとなれば今夜泊まる場所がありません。夜遅くなればなるほどホテルを見つけるのも難しくなる。ということで、アウグスト・インペラトーレ・ルームズは諦めて(クレジットカードの番号を教えてあるから料金を取られちゃうかもしれないけどそれは後で交渉するとして)新たにホテルを探さねば、と歩き出した瞬間、日本から持参した携帯電話が鳴りました。

「チャーオ!ローマのジュリアーナよ。元気?」イタリア人のおばちゃんに時々いるとても甲高い声。…ジュリアーナ。ローマにそんな友達いたっけ?「ジュリアーナ?」「スィー!アウグスト・インペラトーレの」。おお!そのジュリアーナなら用事は大ありです。

「ちょっとあの、どういうことですか?まだ9時なのに誰もいないし、私暗証番号知らないし。」「あのね、今日ねお部屋が空いてたから、あなたが予約したより一つ広い部屋に泊まっていいわよ。入って2番目の左側のお部屋。明日の朝クリスっていう男の子が行くから、チェックインしてお金払って。ローマへようこそ!楽しんでね!

いやいや、私が電話したのは暗証番号を知りたかったからなんです。「あー、暗証番号。0、7、7、4、6。いい?」「07746、ですね?」「そうそう!4ケタね。」「5ケタなんですけど!」「おかしいわね。07746、よ。」…この人は7を繰り返してしまう癖があるのか?「0746、ですか?」「その通り。0736でもいいの本当は。じゃ、ゆっくり休んでね!」「あ、ありがとう」。

村上春樹さんが何かの本に「旅行をして得られた古今東西の真実は、旅行は疲れる、ということである」という感じのことを書いていたけど、本当に心底疲れました。

結果的に、予約したお部屋(より広い部屋)に無事泊まれたし、ホテルというより間借りに近いこの宿屋のシステムが分かってしまえばなかなか快適だったし、ジュリアーナは良い人でその後間違いがないように暗証番号をSMSで送ってくれたし、何も問題はなかったんですけどね。

扉の前に立ちつくして留守番電話に向かって喋ったときの絶望感といったらなかったです。旅行中の大ピンチは、後になってみると笑い話ですね。