マエストロの飴と鞭!?

今回の藤原歌劇団の「フィガロの結婚」は、イタリアの巨匠アルベルト・ゼッダ氏が指揮をなさいました。

ゼッダが振るなら見てみよう、とチケットを買ってくださったオペラファンの方もたくさんいらっしゃったでしょうし、休憩後にマエストロがピットに登場なさった時にはすでに客席から「ブラーヴォ!」が飛んでいましたよね。

マエストロ・ゼッダ(83歳)の驚くべき体力と若すぎる体内時計については前にも書きましたが、噂どおり「妥協」という言葉を知らない厳しいマエストロであることも、一緒に仕事をしてみてよく分かりました。

稽古場で少しでも私たちのテンションが下がっていたり、適当なイタリア語で歌ったりすると(それが朝の11時でも)、”Non si capisce niente cosi`!!(そんなんじゃ何も伝わらーん!)”と、怒鳴られます。怒鳴るんです、あの小柄で穏やかなマエストロ・ゼッダがですよ。

見た感じマエストロより数段血気盛んに見える演出家のマルコも、マエストロほど厳しい言葉で稽古場を凍りつかせることはありませんでした。

そんなわけで、私が本番前のオーケストラ合わせの時、マエストロ・ゼッダに投げキッスをもらったのがすごーく嬉しかったこと、分かっていただけますよね?

そんな厳しいマエストロ・ゼッダですが、劇場に入るとこまめに差し入れをしてくださいます。それも日本に来てからそこらへんで買ったものではなく、明らかにイタリアからご持参なさったお菓子など。

だから量は少なめなので、マエストロの音楽性に少しでもあやかりたいと、皆で争うようにいただきました(笑)。

さらにゲネプロの日。本来は歌手がマエストロの楽屋にお伺いして(べつに巨匠じゃなくても)、「よろしくお願いします」とご挨拶するべきなのですが、私が楽屋で衣裳を着せていただいていたら、マエストロ・ゼッダ、私の楽屋に来てくださったんですよね。

感激してしまいましたが、本番の日はこんなことをさせてはならぬ、私が行かねば!と、思いました。それなのに。

歌手は髪をセットしたりメイクをしてもらったり、扮装に忙しいんですよね(言い訳)。マエストロより1時間以上も前に劇場に入っていたにも関わらず、本番の日もまたマエストロに先を越されてしまいました。

メイク室から楽屋に戻った瞬間、まるでおじいちゃんが孫に会いに来るみたいに、私の楽屋にいらっしゃいました。”Susannetta cara, In bocca al lupo!(可愛いスザンナ、よろしくね)”とおっしゃって、両頬にキスをするイタリア式の挨拶をしてくださいました。うう、嬉しかった。

でも本番が終わった後、緞帳の下りた舞台でダメ出しをいただいてしまいました。「5番の二重唱のあそこ、忘れないでね」。そう、お気づきのお客様もいらっしゃったことと思いますが、ひとフレーズ、ぽっかり落ちちゃったんですよね。

1幕での出来事だったので、自分でも半分忘れそうになっていましたが、マエストロは忘れていなかった(当たり前か)。ごご、ごめんなさい。

たいていのマエストロは、本番が終わると、たとえ少々事故やうまくいかないことがあっても(もうやり直しがきかないので)、その場では「よかった」と言ってくださるものです。

終演直後の舞台の上でマエストロにダメをもらったのは初めてでした。思わず「もう一回やらせてください」と答えてしまいました。

鞭(たくさん)→飴→飴ときて、最後に鞭。マエストロ、参りました。