巨匠、あらわる

私が今稽古に明け暮れている、藤原歌劇団公演の「フィガロの結婚」は、イタリア人のマエストロ・アルベルト・ゼッダが指揮をなさる予定です。

ゼッダさんはロッシーニの権威として世界的に有名なマエストロで、藤原歌劇団もこれまでロッシーニのオペラで何度か招聘してきました。

モーツァルト作品で藤原に登場なさるのは初めてで(というか、藤原がモーツァルト作品を上演するのがウン十年ぶり)、私はロッシーニ・シリーズに参加したことがないので、マエストロ・ゼッダの棒で歌うのは初めてです。

明日、そのマエストロ・ゼッダとの初顔合わせ、音楽稽古が予定されており、決して妥協しない厳しいマエストロだという噂を聞いていたので、私たちは緊張しながら明日を待っていました。

ところが。今日の午後成田空港に到着されたマエストロ、「立ち稽古をやっているなら見たい」ということで、稽古場に直行なさったんですね。

折しも、私演じるスザンナのアリアの稽古が始まったところでした。マルコに大体の動きのアイディアをもらって、いざ私が初めてアリアを歌おうと前奏が始まった瞬間、ドアが開いて巨匠が登場しました。

一瞬かたまる一同。一番青ざめたのはもちろん私です。全員で一通りマエストロに挨拶をした後、いきなりマエストロ・ゼッダの棒で、全身に汗をかきながらのアリアの稽古が始まりました。

スザンナのアリア、一見易しそうに見えるのですが、歌う側は大変な緊張を強いられる曲です。

明日のマエストロ音楽稽古では、万全の準備をして、演技のことも忘れて、私のマックスの状態で聞いていただこうと思っていたのに…!

立ち稽古だからもちろん演技をしなければならないし、その演技だってたった今軽ーく説明されただけで、頭にも体にも全然入っていません。

返す返すも心残りな!?マエストロ・ゼッダとの初対面でしたが、マエストロの手はまるで魔法の杖のようで、破れかぶれな私の歌にも匙を投げることなく、様々なヒントを与えてくださいました。

なんだかもう、今回のオペラの緊張の山場を今日越えてしまった感じなので、明日からは開き直って楽しくやれるかも!なんちゃって。