衣裳屋さんとの攻防

「朱音会」の後日談、その2です。

オペラでも、特に日本もので着物を着なければならない時には、衣裳屋さんに着付けていただきます。

「日本もののオペラの衣裳屋さん」というのは色々なパターンがあって、時には本格的に歌舞伎や日本舞踊の衣裳屋さんが来てくださることもあります。

そんな時、衣裳屋さんはもちろん着物の専門家なので、それはそれは美しく着付けて下さるのですがすが「オペラ歌手はその衣裳を着てガンガン歌うのである」ということを念頭に置いていない場合も多く、新人の頃は衣裳を着せてもらうと「どこかわからないけど紐がきつくて息が入らない」という悲劇がよくありました。

その苦い経験から、今では衣裳を着せていただく時には知らず知らず、衣裳屋さんと紐の位置や締め具合をめぐって攻防を繰り広げています。

「ここを締められると息が入らない」という場所を締められそうになったら紐の位置を下げてもらったり、紐を締めてもらう瞬間に肺を目一杯ふくらませたり。

「朱音会」でも、下ざらいの時、無意識にオペラの時と同じ感じで衣裳屋さんと攻めぎ合いつつ最初の着物を着せていただいたのですが、「藤娘」は途中で着替えがあるんですよね。

その早着替えの時は、なんだか訳が分からないうちに後見さんに舞台袖に連れて行かれ、目にも留まらぬ早業で衣裳屋さんがワーッと着替えさせて下さるので、「攻防」するどころではなく、帯も紐もされるがままに締められて、ふたたび舞台に出ました

すると。なんだか少し腰がすわったような、みぞおちが伸びて姿勢もシャキッとしたような。そうすると膝がやわらかく使えるような、気がするではありませんか。

そんなわけで、本番の日は最初から衣裳屋さんに抵抗せず、素直にギュギュッと締めて着付けていただきました。

結果は、まぁ私の実力がなさすぎてどうにもなりませんでしたが(涙)、でもやっぱり餅は餅屋(…なんか違う!?)だなぁ、と感心したのでした。

衣裳屋さんに着付けていただいた時の、あのしゃんとする感じを体で覚えておけたら、踊りも所作も少し美しくできるようになるかしら。