プロンプターBOXから

オペラを上演する劇場には、舞台と客席の間に「オーケストラピット」という穴があるのはご存じの方も多いと思います。

オーケストラはピットの中で演奏し、ピット中央の一番お客様に近い場所に指揮者が立って、棒を振ります。

一方、ピット中央の、一番舞台に近い場所に設置されているのが「プロンプターボックス」です。

中には「プロンプター」(オバマ大統領なんかが演説の時に見る透明な板と同じ名前と役割だけど、こちらは生身の人間です)という素晴らしい職人さんがいて、歌手に歌いだしの台詞を教えたり合図を出したりして、上演中の事故を未然に防いでくれています。

というか、さんざん稽古してもなお台詞や入りを間違える阿呆な歌手を助けてくれるわけですね。

'50〜'60年代ぐらいの、ライブ録音のオペラ全曲盤レコードなんかだと、プロンプターの声がはっきり入っているものも結構ありますよね。

日本人は勤勉だし、劇場の設備の問題もあるし、すべてのオペラ公演にプロンプターがつくわけではありません。が、先日の「高野聖」では、副指揮者の田中祐子さん(何度も言うけど若くて美人で超優秀)がプロンプターボックスに入って大活躍してくれました。

何しろ池辺先生の音楽はお洒落で歌手泣かせ(…)なので、半年も稽古してるくせに間違えまくる私たち。とほほ。

大きな声では言えませんが、3回の本番中、もしかするとマエストロよりプロンプターを注視していた瞬間のほうが多かったかもしれません。

それくらい、今回のオペラではプロンプター様にお世話になりました。カーテンコールの時、マエストロが黒い箱の中の人と握手していたのをご覧になったお客様もいらしたのではないでしょうか。

さてそのカーテンコールの時、お茶目プロンプターの祐子ちゃんは「カンペ」で舞台の上の私たちを笑わせてくれました。

まずは池辺先生が登場したところで「池辺先生、一生ついて行きます!」のカンペ。
池辺先生が気をよくしたところで「とう子、愛してる!」。
私が「私も愛してる!」と答えたところで「聡(中鉢さんの名前)最高!」続いて「結婚してください!」さらに「080***(彼女の携帯番号)」。

このあたりで出演者は爆笑でしたが、私としては最後に出てきた「大賀先生おはようございます」に一番笑いました。

大賀先生といえば日本オペラ協会の総監督、つまり我々の座長です。

本番の日はみんながバタバタしていて、きっと祐子さんも大賀先生に挨拶しそびれていたのでしょう。それをプロンプBOXからカンペでやるあたり、プロンプター祐子、大物です。

一応間違いのないように言っておくと、オペラのプロンプターはカンペで台詞を教えてくれるわけではないんですよ。これは終演後の祐子さんの粋なサプライズ。

いつか近い将来、プロンプBOXではなくピットの指揮台に立ったマエストラ・祐子の棒で歌ってみたいです。