顔で芝居せよ

「顔で芝居するな」と教わってきました。

映像の世界なら、ちょっとした目の動きや表情の変化をカメラがとらえてくれる。でも私たちがやるのは舞台なので、特にオペラを上演するような1,000人以上の劇場で、歌手の顔の表情まではなかなかお客様から見えません。

顔でやっても伝わらないのだから、登場人物の心理状態は声とそれから体で表現しなければならない、と思ってきました。

が、今回の「高野聖」で初めて出会った演出家、小田健也さんに、最初の稽古の日、言われたのです。「もっと顔で芝居しなさい」と。

なんだか今まで言われてきたことと正反対だし、正直言って意味が分かりませんでした。この方は芝居畑の演出家で、オペラのことは知らないのかしら、とさえ思いました。

とは言え「演出家は神様」のオペラの稽古場ですから、なんとか要求に応えようと試行錯誤するうちに、ちょっとだけ分かったんですよね。

人間、普段の生活で、思ったことは自然と顔に出ますよね。舞台の上で体で演じるにしても、顔の表情は自然と役の心理状態に合わせて変化するはずです(お客様からは見えなかったとしても)。

心が動き→顔に表れ→体が動くというプロセスがあるとするなら、「体で芝居せねば」と思うあまり「顔」のプロセスをとばしてしまうと、体の動きに嘘が出る(心の動きと連動していなかったり、不必要に大きな動きになったり)のではないかと。

だから今回は、体でやろうとしている心理状態を、積極的に顔でもやるようにしてみました。顔の表情に敏感になることで、心の動きも体の動きもより濃密で細やかになる気がします。

そして、本番を2回踏ませていただいた後の今日の立ち稽古。「顔が良くなった」と、小田先生に言っていただきましたよ。ぐふふ。私の努力の方向性は間違っていなかったということでしょうか?

月並みな言葉だけど、とても勉強になりました。1月22日新国立劇場ではオペラグラスを借りて、私の顔の表情にも注目してくださいねー。