イル・トロヴァトーレ

  • 川越塔子 公式ブログ/イル・トロヴァトーレ 画像1
新国立劇場の今シーズンのオープニングは、ヴェルディ作曲のオペラ「イル・トロヴァトーレ」です。今日が初日(たしか)ですが、私は先日の公開GPを見てきました

何をかくそう、私はこのオペラが大好きです。

ジュゼッペ・ヴェルディは長生きで、ずっとオペラを書き続けたのでたくさんの作品があり、作風も初期と晩年のものとでは大きく違います。

というより、ヴェルディの作風の変遷は、イコール19世紀イタリアオペラの進化の歴史、という感じでしょうか。

その中で、「イル・トロヴァトーレ」は「リゴレット」、「椿姫」とともに中期の三大傑作、と言われています。

この後、「シモン・ボッカネグラ」というオペラでヴェルディは「カヴァティーナ・カバレッタ形式」という、19世紀前半のイタリアオペラでは常識だった曲の構成をやめてしまいます。

「カヴァティーナ・カバレッタ形式」というのは、一人で歌うアリアでも二重唱でも三重唱でも、曲が二つの部分に分かれていて、前半をカヴァティーナ(テンポがゆったりめで朗々と歌い上げる)、後半をカバレッタ(歯切れよいテンポで技巧的に歌う)と呼ぶものです。

ヴェルディの前のドニゼッティやベッリーニのオペラでは、大きなフィナーレや合唱曲を除けばほとんど全部の曲が、この形式で書かれています。

が、場面によってはこの形式に固執することによってドラマの流れが止まってしまうので、ヴェルディは、「リゴレット」ぐらいからはかなり大胆にカヴァティーナ・カバレッタ形式を壊し始めています。

リゴレットのアリア「悪魔め鬼め」は前半のテンポが速く後半が遅いし、ジルダのアリア「慕わしい人の名は」にはカバレッタに当たる部分がありませんよね。

そして「シモン・ボッカネグラ」以降この形式は姿を消してしまい、イタリアオペラは、プッチーニの作品がそうであるように、音楽がドラマの流れを止めることのない方向へ進化していくわけです。

前置きが長すぎましたが、「イル・トロヴァトーレ」は「リゴレット」の後の作品ではありますが、カヴァティーナ・カバレッタ形式が多用されたオペラです。

カヴァティーナ・カバレッタ形式の弱点は、ドラマを止める場合があること。もちろんピタリとはまる場面では逆に劇的効果を高めることもあるんですけどね。

では醍醐味は、というとやはり、しばし時を止めて、音楽と歌手の声に酔いしれることができる点でしょうか。

「イル・トロヴァトーレ」は、ヴェルディならではの魅力的なメロディーが詰まりに詰まった、宝石箱のような作品なので(そんじょそこらの作曲家ならオペラが5本ぐらい書けそうな量の素晴らしい旋律が、惜しげもなく次々に繰り出される)、カヴァティーナでもカバレッタでも長々とやってもらって、堪能しなければ損、というものです。

私のたまらなく大好きなポイントは、レオノーラの最初のアリアの始まりで転調するところ、伯爵とマンリーコとレオノーラの三重唱のカバレッタ、4幕のアズチェーナとマンリーコの二重唱の前半、などなど。

もちろん、3幕のマンリーコのアリアのカバレッタ「恐ろしい炎」や4幕のレオノーラのアリア「恋はばら色の翼に乗って」を含め、どれほど感動的なメロディー溢れているのか、というのは、実際にオペラを見ていただくのが一番。

今回の新国立劇場の公演では、先代のルーナ伯爵の亡霊?と思われる人物が、騎馬像から降りてきて舞台に登場する、面白い演出です。

多分あと4、5回公演があるはずなので、宝石のようなヴェルディの旋律を堪能したい方、ぜひ新国立劇場に行ってみてくださいませ〜。

写真は、ヴェルディの生地、イタリアのブッセートの町の「ヴェルディ広場」にあるヴェルディ像。