ショートストーリー(おわり)

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その男がみさきの正面に向かい合うように立ち、みさきの頭を撫でた。
みさきも嬉しそうに男を見つめている。


激しい衝撃が走った。


ダメだ…みさきと別れるなんてイヤだ…!


そうだ。俺の日常の中にはいつもみさきがいた。
どうやっても消せないくらいに彼女の存在があって、俺の存在は彼女と共にあった。
彼女がいるから俺は安心して幸せでいられたんだ。


こんな状況になって初めて俺は彼女のことが本当に好きなんだって思い知らされた。



「あっ、ゆうくん!」


みさきが俺に気付いた。
男も俺を見る。


俺は男のほうに向けて歩み寄った。


“みさきは渡さない!”


男の前に立つと俺よりも背が高く、スラッとしていて、悔しいけどイケメンだ。
しかもなんか大人…


「君がゆうくん」

「は、はい。い、いや、僕はみさきの彼氏です」

その男を見上げて言った。


「うん」

ウッ、大人の余裕ってやつか…


「あ、あなたがみさきのことをどう思ってるかは知りませんが、」

「ちょっとゆうくん」

「みさきは黙ってて」

「・・・」

「あなたがみさきのことをどう思ってるかは知りませんが僕にとってみさきは大事な彼女で、これまでずっと仲良くやってきて、そりゃーなんでもかんでも自分勝手に決めたりこっちの都合も考えずいきなり呼び出したりメールの返事が遅いと文句言ったりわがままなことを言ったりもするけど可愛いところもたくさんあって、本当はすごく優しいやつで、みさきのことは誰よりも俺がよくわかっていて、俺にとってはなくてはならない存在で、だからあの、なんだっけ」


みさきを失いたくない一心で必死だった。


「・・・へぇ〜。それで?俺にどうしろと言うんだい?」

「だからあの、みさきから手をひいてください!」

「ちょっとゆうくん何言ってんの!」


「いいから。で?もしいやだって言ったら?」

「本当にみさきのことが好きなんです!どうかお願いします!」

「悪いが俺もみさきから手をひく気はない」

「みさきから手をひいてくれるなら俺なんでもします!」

「ならみさきから手をひいてくれ」

「ウッ。それ以外ならなんでもします!」


「・・・そうか。なら君はみさきと結婚出来るのか?」

「はい!ずっと離しません。みさきを幸せにします!」



「ゆうくん…」




「ヒュ〜〜♪」




「ちょっともうやめてよお兄ちゃん!」




「・・・えっ?」




「はぁ、もう。お兄ちゃんがこっちに来たからちょっと会ってて、ついでに送ってもらっただけ」

「・・・」

「あ〜はずかしい!」

「ハハ、ごめんごめん(笑)彼を見てたらなんかちょっといじってみたくなって」

「す、すいませんっ!」

「いや、こっちこそ悪かったね」

「もぅ。送ってもらうんじゃなかった」

「でも良かったじゃないか。結婚したいけど彼がどう思ってるかわからないって言ってたし、他の男と付き合ってもいいって言われて、そのゆうくん?と結婚出来るかどうか悩んでたんだろ」



「え?そうだったのか…」



「あ〜もう!なに彼女の兄貴にプロポーズしてんのよっ!変な勘違いして先走っちゃって」

「ごめん…。あの人、いや、お兄さんがみさきの頭を撫でて仲良さそうにしてたし、こないだもし好きな人が出来たらって言ってたからてっきり新しい彼氏かと思って。それに話したいことがあるとも言ってたし」

「あぁ、バイトのことね」

「は?」

「どこか新しいところに移ろうと思ってたんだけど、今のところもまだそんなに長くないし、よくよく考えたらそれほど悪くないし、もっと忍耐強くならなきゃなって反省したの」

「話ってそれ?」

「そうだよ。私にとってはすごいことなんだから。それにゆうくんいつも私のやりたいようにやらせてくれて、そんなゆうくんに甘えてばかりで、そのうち嫌われるんじゃないかって思ったらなんか心配になっちゃって」

「そうか」

「あっ、それから私の頭に銀杏の葉っぱが落ちたからはらってくれたの。それで見上げたらとても黄色くて、ヒラヒラと落ちる葉が綺麗で見とれてたんだ」

「そうだったのかぁ。まぎらわしいな」

「なに言ってんのよ。でも嬉しかった。ゆうくんあんなに必死に私のこと離さないようにしてくれて」

「うん。俺、みさきが俺の元から去っていくのかと思ったら急に恐くなって、そうしたらどうしたらいいかわからなくなっちゃって。俺、みさきの大切さがわかったよ」

「うん」


「おい、俺は行くぞ」

「あ、うん。ありがと」

「ゆうくん、なんでもしてくれよ(笑)」

「あ、あれはその、」



「みさきのことよろしくな」

「はい」


そう言うとお兄さんは運転席に乗り込んだ。
赤いスポーツカーに落ちたいくつもの黄色い銀杏の葉がとても鮮やかだった。



あれから10年、黄色い銀杏の木を見ると今でもそのことを思い出す。


最後に付き合った女。

天真爛漫で好奇心旺盛な女。


下から階段を昇って来る足音が聞こえる。

そしてドアが開く。


「これからみかちゃんママたちとお出かけしてくるんだけど、この服どう?」

「いいんじゃないか」

「やっぱりこっちね。あ、下のテーブルにご飯作って置いてあるから食べてね」


そう言ってまた階段を下りて行く。

みさきは相変わらずだ。付き合ったばかりの頃とちっとも変わらない。

下からみさきの声が聞こえて来る。


「ほら、さやちゃん早く準備しなさい。もう行くわよ」


変わったことと言えば妻になりそして母になったことくらいだろうか。


「あっそうそう、今夜お兄ちゃん夫婦が来るって」

「ゲッ」


10年経った今でもお兄さんに会うとなんか気恥ずかしい。
そして今でも時々からかわれる。
いつか娘に俺の恥ずかしい過去をばらされるんじゃないかと気がきじゃない。


「じゃあ行ってくるねぇ〜」

「いってくるね〜」


娘もそのうちみさきに似てくるのだろうか。


「行ってらっしゃい」


あの時、ただ銀杏の葉が頭の上に落ちただけだった。

穏やかな晴れた日に幸せを感じながら歩いていた俺に突然ふりかかった不幸。
みさきを失うことの苦しみがあの瞬間にわき起こり、俺を暴走させた。

あの出来事がなかったら俺はみさきと結婚出来ていたのだろうか。

今でも時々あの感覚を思い出しては、みさきのことを見つめている。
今度は油断してみさきからのサインを見逃さないように。



あれから10年。


今もみさきが傍にいて、愛しい娘がいる。

さっきまで慌ただしかった家の中も今は静まり返っている。

みさきがいないとこんなにも静かなものなのか。

みさきとさやが出かける前の賑やかな余韻を感じていたらいつの間にか笑顔がこぼれていた。

そして窓の外の銀杏の木を眺めながらつぶやいた。




「いいんじゃないか」






おしまい。


切ない感じに終わらせようか明るく終わらせようか迷ったんだけど、初めての短編は明るく終わらせることにしたよ。

なんとなく淋しさを感じてしまいそうな季節にほんのり優しくてなんとなく温かい感じになれたらいいな。

ちなみにすべてフィクションです。

読んでくれてありがとう(^^)