不可思議シリーズ『蜃気楼』最終回

朝、目が覚めると。






僕は、彼女に心奪われていた。







たった一晩のコミュニケーションで全てを奪われのだ。







こんな話があるだろうか。







“魔性の女”







この人がそうなんだろうか。









もしかして、匠さんの店のホストの人がはまっていたのもこの人かもしれない。








善人なんかじゃなくて、悪女の香りしか漂ってこない女。









その悪女は、モーニングコーヒーを飲みながら僕の顔を見た。









まさに悪魔のような笑みを浮かべて。








「あなたの彼女…理沙ちゃんね、残念だったわね。ツーショットの写真は見たことがあったのよ。だからあなたの顔は知ってたの」






「! …あなたが…ヒロ君…だったんですね」







「理沙ちゃんはそう呼んでたわね」







「女…だったのか…」






「そう。あたしね、バイなの。彼女は禁断の恋にずいぶん苦しんでたみたいだったけど…」








蜃気楼。








追えば逃げる幻は、左と右が逆に写るとも言われる。









ヒロ君が男だと思っていた僕の何かが音を立てて崩れていった。








理沙はきっと女と付き合っている(それも一方的な思い込みかもしれないが)事を恥ずかしくて『彼氏』という言葉を使っていたんだ。








男と女が逆だった。










僕が追いかけていたのは本当に蜃気楼だった。












理沙を死に追いやる原因になった女。












堂々と僕が誰かわかって一夜を共にする悪意に満ち溢れた女。















だけど。













僕は既に、彼女の虜になっていた。









彼女無しでは生きて行けそうに無い。










それほど彼女を愛してしまった。










洗脳されるとはこういう気分だろうか。











あの時匠さんと会わずにアルカードに行って良かった。









彼女と出会えたんだから。










彼女の言う事ならなんでも聞ける。










どんな事でも。












「ところで…私の兄がやってる自己啓発セミナーがね、あなたにピッタリだと思うの。ちょっと高いけど…」