不可思議シリーズ『蜃気楼』

通夜は終わった。



現場では、哀しい気持ちよりもモヤモヤの方がはるかに巨大になっていて。





不謹慎とか無駄だとか、わかっていながらもひらすらヒロ君を探した。




ちょっとでも「あれか?」と思えるような男。




もしかして挙動不審な男。



なんでもいいからヒントが欲しかった。




結果?




クソッ…








都心までは蔦山と一緒に帰ってきた。



あいつなりの気遣いで色々話しかけてくれはしたけど、右耳から左耳に抜けるだけで



…日記の内容が気になりすぎていたからだ。



おそらく僕との事だけでなく、ヒロ君との事も書いてある。



僕とだけでなく、理沙とヒロ君の歩んだ日々。



それが描かれた日記を読む事は、さながら禁断の実をかじるような気持ちに…なる。










自分のマンションについてすぐ、僕は、その禁断の実をかじる事にした。




まずは一ページ。



出会って三回目のデートで中華街で飲茶のお店に行った話が書いてある。



理沙は、イタリア料理や中華料理、エスニックが好きだったから、二人で食事をする時はいつもその3つをローテーションで食べてたんだ。



他にも箱根や北海道に旅行をした話や、理沙が寝込んだ時に僕が看病しに行った時の話が彼女らしい短文ながら書いてあって…涙を溢れさせた。





「理沙…うう…」





あの後、ワンクッション挟むような別の彼女ができていたらこの涙はなかったかもしれない。



ダイレクトに呼び起こされる記憶が、哀しみを増幅させ…





別れ話のくだりに入る頃には、哀しみを通り越して、苦しかった。






だが、本題はこの後だ。




ヒロ君が本当にいるならば、この日記を読めばわかるはず…




虚言の可能性?




日記にまで書くならもう精神科に行ってもおかしくない程の虚言だろうし、付き合った僕なら何かを感じ取れると思った。




「この辺りからだな…」



“昨日、六本木のアルカードでヒロ君と仲良くなった”



“ヒロ君は不思議な空気を持っている”



“ヒロ君と付き合う事になっちゃった”


「…!」



数ページ読んで僕は、直感した。






…ヒロ君は存在する。






間違いなく。







この日から。







蜃気楼を追いかける日々が始まった…。