不可思議シリーズ『蜃気楼』

「確かに…」



モヤモヤする僕にあてつけるように名前(あだ名?)だけ、しかもカタカナで葬儀名簿に書き込むとは。





例えば。




本物のヒロ君だとして、もしも理沙の死に責任を感じているならばあまりにもふざけた行為じゃないか。




普通は本名をしっかりと書き記すものだろう。




とすれば。




ヤツは理沙の通夜になんのために来たのだろうか。



ふざけに?



まさか…




「でもよコウダイ、誰も会った事ないんならなんで通夜に来れたんだ?」



「んんん?」



…そういえば。



連絡、誰がしたんだ?





「あー…コウダイ君だったかな?」



声をかけてきたのは理沙の父親だった。



僕は、何故かこの人に好かれていたんだ。




理沙が別れた理由をお父さんに話したかどうかはわからないが、気まずいものが込み上げてきた。




「どうも…」



「残念だよ…」



「あの、理沙…彼氏にふられたから死んだって…」




「…ああ」



「その彼氏、見たことありますか?」



「いや…無いよ。まあ色々ノロケていたが…わからんね。それよりな、理沙の形見分けと言っちゃなんだが…日記、もらってくれないか」



「日記っ?」



「最初の方、パラパラめくったんだが…コウダイ君と付き合って楽しかった事が書いてあってな。ああ、こりゃ私が読んだりするよりコウダイ君に持っててもらった方が理沙も喜ぶ気がしてね」




「そんなの…もらっていいんですかね…」



「ああ…なんなら四十九日まででもいいから…理沙は君とお付き合いしている時が一番…元気に見えたからね…」




僕だって別れた身だけど…理沙のお父さんにそう言って貰えたのはなんだか嬉しかった。


だから、日記を持って帰る事にした。




「俺との…どんな事が書いてあんだろ。この分厚さだとヒロ君の話までいってそうだな」



最初のページはいきなり僕と中華街に行った日の事が書いてあった。



「……」



2ページ、3ページとめくっていくうち、涙がこぼれ落ちる。



「…ダメだ、家帰ってちゃんと読も…」



だがそのままスピードをあげてパラパラとめくった僕は、凍りついた。

まるで血文字の様に赤い文字で最後のページに小さく













“たすけて”








と書かれていたからだ。