不可思議シリーズ『蜃気楼』

「ヒロ!?」




ヒロって…あのヒロ君か?



「すいません、こ、この人、どの人ですか!?」



「はい?」



受付の親戚らしいおばさんは、宇宙人を見るような目で僕に目を合わせた。



「…お知り合い?」



「そういう訳じゃないんですけど! ちょっと…」



その先をなんて言ったらいいか、つまっちゃった。



「ううん、どこに行ったかしらねぇ…ちょっと見当たらないわね…」



「あの、どんな人でしたか!」



「どんなって…よく見なかったけど、若い人だったわよ…歳はあなたくらいだと思うけど…」



「服は!? 服の色は?」



「お通夜だもの、喪服だったわよ」



「そ、そうか。他になんか特徴は…」



「うーんよく覚えてないなぁ…」



そりゃそうだ。



夜の暗がりでいちいち知り合いでもないお客を覚えていられる訳が無い。



「あなたの三人前だから、まだその辺にいるんじゃないかしら」



「そう…ですね」



でも、故人の友人の若い人間が沢山いる中で、顔を知らない奴を探せる訳が無い。



よく考えれば



『ヒロ』



と書かれていたからってあの



“ヒロ君”



だとは限らない。



それに本当にいたところでどうするっていうんだ?



僕も昨年彼女をふったのだ。



理沙が自殺したからと言って問い詰める資格も無い。






ただ。





いるのかいないのかわからないヒロ君にイライラしはじめて来たのは確かだ。



「おおコウダイ、大丈夫か?」



声をかけてきたのは蔦山だった。



僕や彼女の遊び仲間、蔦山は女好きで有名なチャラ男。



チャラ山と呼ばれている。



先日の飲み会とは別グループだけに、会うのは2ヶ月ぶりだった。



僕が別れた後理沙にアプローチをかけたって噂もあった。



「残念だったな、理沙ちゃん」



「そうだな」



「彼氏にふられたってお前じゃないよな?」



「…俺じゃないよ…」



「…なんか変だぞ? どうした?」



僕は、このおかしな成り行きにチャラ山を巻き込む事にした。



…要はそろそろ独りで抱え込みたくなくなってきたんだ。



「…という訳」



「えーっ…ワケわからんね」



「だろ」



「でも…葬式の名簿にカタカナでヒロだけ書くか?」



「…確かに…?」