不可思議シリーズ『蜃気楼』

「いないって…どういう事?」



「ヒロ君はさ、空想の彼氏なの」



「んな…んで?」



「アタシと蓮ちゃんは理沙と仲良いじゃん。蓮ちゃんから聞いたけど、彼氏と会うからって言ってた日に何回も独りでいたり女友達といるの見かけたんだって」



「そ…それくらいならドタキャンされただけかもしれないじゃないか」



「アタシが家に行っても彼氏のいる痕跡は全く無かったし、決定的なのはこの間の飲み会の時に彼氏からもらったって言ってたネックレス買ってるトコ、アタシ見たんだよね」



「んん? それは…」



何て言えばいいのかわからなかった。



その後の会話が今ひとつ頭には入らなかったし、その後続いたつまらない映画の話なんてもはや覚えてもない。




理沙はなんのために空想の恋人を産み出したのか?



僕に言った数々の別れを肯定する台詞は嘘だったのか?



だとしたらあの幸せそうな素振りは演技なのか?



謎だらけの



“ヒロ君”。




いつの間にか終わった愛ちゃんとの食事の最中から、ずっと頭の中はその事でいっぱいだった。




理沙……おかしくなっちゃったんだろうか。









一週間たっても、空想の彼氏が僕の頭の片隅に住み着いていた。



だってさ。



付き合っていた時は普通の娘だったのに。




おかしくなるにしても程があるだろ?



そもそも本当に空想なのか?



いっそのこと本人に聞いてみる?



「ヒロ君なんていないんじゃない?」



って?



できない…。




そして頭の悪い僕はどうすればいいか全然浮かばない…



「ああ、もっと心理学とか勉強しとけば良かった…」







そんな事を考えながら、また一週間が過ぎた。





僕の悶々とした日々に劇的な変化をもたらしたのは、愛ちゃんからの電話だった。



「もしもし、コウダイ君!」



「ああ、愛ちゃん。ネットで見たら、こないだの映画続編ができるんだってね。ラスベガス編らしい…」



「そんなのどうでもいいよ! 大変なの!」



「どしたの?」



「理沙が自殺しちゃったの! 明日お通夜だって!」



「えっ…? 嘘だろ…?」



「ホント! こんな事嘘つかないよ!」



「な…なんで…」



「…遺書には“彼氏と別れたから”って書いてあったって…」




「…え?」