不可思議シリーズ『蜃気楼』

「よーし、二次会行こう二次会!」



はしゃぐ幹事をよそに、理沙は僕を見て言った。



「遅くなると彼氏に悪いから、今日はもう帰るね。コウダイ君…ホントに会えて良かった!」



胸の奥にあったモヤモヤの水たまりが蒸発した…んだろうな、きっと。



何故わかるかって?



それは僕もそうだから。



あの時彼女と別れて以来、心に何かがあった。



まあ、きっと誰だってそういうの、あるよね。



それが溶けた今日は、僕も彼女と同じ気持ちだった。



ただ一つ違ったのは、彼氏に心配させまいとする理沙と違って僕は独り身なのだ。



だから今日はシッカリと身体に酒の爪痕を残し、この晴れ晴れとした日をひっそりと祝おうと思う。



「コウダイ君、二次会は?」



「おお愛ちゃん、行く行く! 今日は飲むぜぇ!」



…ついでに彼女が出来れば、いい事づくめだ。



「…頑張ろ」







翌日。





二日酔いの腐った身体を起こし、三次会で話した約束を果たすため、愛ちゃんにメールしてみた。



『昨日は飲み過ぎたぁ
映画いつ行く?』



『凄かったね
今週の日曜日はどうかな?』






そして、あっという間にその日はやってきた。




彼女が選んだ映画はクソつまらなかったけど、別にそんなのどうでもいいんだ。



目当ては他に…ね。



「すぐそこに美味いイタリアンがあるんだよ。飯、食わない?」



「うん!」



六本木ヒルズから歩いて五分程度のイタリアンに、僕達は入った。



どちらかと言えば妹タイプの理沙に対して、愛ちゃんはモデル系の美人だ。



屈託の無い笑顔が僕の視線を吸い込む。



「映画面白かったね!」



「…いや…あんま…」


「そう? あれ元が漫画で人気あるんだよ」


「へえ…痛風の中年が主人公の喜劇が人気あるの?」



「お待たせしました。パクチーとアーリオ・オーリオのパスタです」



「これが美味しいんだ。オリジナルメニューなんだけど」



「美味しそう! ここ、よく来るの?」



「まあね」



「ハハーン、理沙と来たんだ…」



「う…うん、まああいつもね、新しい彼氏が出来たみたいだしね」



「ああ…ヒロ君?」



「そうそう。僕も愛ちゃんとご飯くらい食べても…」



「あのヒロ君…ね、いないんだよ」




「…え?」