あの人っぽい文体『あけてくれ・後編』

見えているのかいないのか、ヤツは足を引きずりアタシとの距離を縮めてきます!







“ズゥルリ…”








“ズゥルリ…”









薄目に見えるその姿は、手足が逆方向に曲がり異様に首が長く、一歩進む度にポタポタと口から血泡が垂れているようで…アタシはその姿に



「どうしたらこういうシルエットになるのか」



不思議で仕方がありませんでした。






余裕がある?





あるわけないじゃないですか!




寝たふりをしているアタシは動く訳にいかないんですから!




こっちに近づいてくるのを薄目で




“確認”




しながら固まってなきゃいけない。




他に何もできる事は無い…人生最高のピンチです。




“生きた心地がしない”




こんな時に使う言葉だと思いました…。








“ズゥルリ…”








“ズゥルリ…”









距離が30センチを切ると、もはや恐怖は頂点です。






(石黒君早く…〜うあっ!!)








なんと!








ヤツの身体がアタシの足にのしかかってきました!










もう飛び起きて逃げる事もできません。







アタシは薄目も完全に瞑り、ひたすら寝ているかのようにつとめました。








(南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…)











“ゴポコボ…”







血泡が顔にたれてきます。







ヤツはアタシの身体を押さえ込むようににおおい被さり…







顔の横に頭部を持ってきたのか…。






(うわ〜っ!)








寝たふりの顔を崩さないままただひたすらに祈り続けた数秒間…ヤツもアタシの顔を凝視しているようです!











(南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…)









と、耳もとで大きな声が。











『なんだ寝たふりか!』













アタシはその瞬間、意識を失いました。













気がつけば朝。











扉は開いていて、ヤツは居なくなっていました。









アタシは脱兎の如く外に出ましたが、石黒君がバイト先に出勤する事も、彼と会う事も二度とありませんでした…。




もしかして、アタシの代わりに連れていかれたのかもしれませんね…。