あの人っぽい文体『あけてくれ・前編』

この時期になるといつも思い出す友達がいます。




アタシが二十歳で上京して、東京で初めて仲良くなった、石尾君っていう色黒で背の高い…ちょっと天然のナイスガイでした。




アタシは上京して一年くらいは深夜警備のバイトだったんですけど、バイト先のビルが改装されるってんで、コンビニのバイトに変えたんですよ。



そのコンビニバイトで知り合ったのが彼でね。




沖縄出身で、どこかの〜んびりしてるところが癒されましたねぇ。



二人でよく賞味期限切れの弁当食べながら夢を語り合ったもんです。



石尾君の夢はミュージシャンになる事で、アタシの夢は俳優になる事だったんでシンパシーはありました。



アタシの住んでるマンションは前にも話した通り、お風呂に霊が出たんですけども。




その話をして1ヶ月くらい…たった時でした。



昼の食事の時間にね、彼の口から不思議な話が飛び出したんです…



「昨日から引越した僕のアパート、前に住んでた人が失踪したらしくて家財道具がそのまま貰えたんだけど」



「そうなんだ」



普通ね、そういうのは気持ち悪いと思うんですが、彼は本当に細かい事は気にしないんですよね。




「なんか前の住人、戻ってきたみたいなんだよね」



「は?」



「昨日寝てたらさあ、夜中に玄関の外から突然ノックも無しに『あけてくれ』っていう声が聞こえたんだよ」



「えっ?」



「でも眠かったからそのまま寝ちゃったんだけどね」



「お…大物だね…」



「ねぇ(笑)? 朝出る時に泥だらけの足跡がついてたから夢じゃあなかったんだよ」



で、その日のバイト終わりに引越し祝いだってんで、二人でビール買い込んで彼のアパートに行ったんです。



そのアパートはね、築何十年なんですかね、古い木造で階段なんかは歩くとギシギシいうんですよ。



蒸し暑い日なのに、中はどことなくどんよりとして…思えばこの時点で気がつけば良かったんです…



深夜0時を回った頃、お酒がなくなっちゃいましてね。



「僕が買ってくるから待っててよ」



アタシも行こうとしたんですけど、何しろ酩酊してますしね、お客だからってんで彼はススっと出ていっちゃったんですよね。




そして、彼が出ていってものの十分もしないうちに。




扉の外から突然聞こえてきたんです。



「…あけてくれ!」