ジ・コントローラー27『断末魔』

飯塚を寝かせた瞬間、僕はナイフを取り上げ、ほんの一センチ程左アバラの隙間に突き刺した。



「ンアッ…」



声にならない呻きをあげ、僕に憎しみの視線を投げつける。



「刺されたのは初めてかい?」



「クソッタレ…」



僕の右膝は飯塚のみぞおちに、標本の昆虫の虫ピンのように深々とのしかかり、右手は飯塚の首の両脇にある頸動脈をキツく抑えている。



みぞおちの膝は


『ニーインザベリー』


という相手を動けなくする柔術の技術だ。


膝をみぞおちに置く事で体格差のある相手も動けなくする事ができる。



頸動脈は締められると意識が薄れていき、最後は落ちる(意識が無くなる)。



この薄れた意識がポイントだった。



僕は左手で血を顔にふりかけ、奴の目に塗りつけた。



「飯塚、これはお前の血だ。さっき胸を刺した。もうすぐお前は死ぬんだ」




「何を…この人殺し…」




「殺人鬼が何を言う…ここでお前の人生は終わりだ…あの世で遠金さんに詫びろ」




「ク…ソ…テメェ…何者…だ…」




「僕は…万物を司る“コントローラー”だ! 僕の前に敵はない。最後だ、飯塚!」







30秒…1分…











「チクショ…お前を…殺したかった……赤い…母ちゃん…なんで………」









こうして殺人鬼・飯塚文雄はこの世から消えた。




母親に対する台詞が最期に出たのは、おそらく母親の存在がこの女性を狙った快楽殺人の源流となったからだろう。



異性に対するコンプレックスが両親から産まれるケースは少なくない。


今となってはどうでもいいけどね。






「匠さん…本当に殺しちゃったんですか?」



「アバラにナイフを突いたけど一センチくらいだから内蔵には達してないし、頸動脈を締めて意識が朦朧としているところに“死”の暗示をかけただけだよ」



「じゃあまた気がついたら襲われちゃうじゃないですか!」



「飯塚文雄の人格は多分もう出てこない。奴は自分が死んだと思い込み、自分の存在を消したんだ」



「凄い…最初からそうやってれば良かったのに。寝てろって言われた時はヒヤヒヤしましたよ」



「フフ…あの手は接近しないと無理なんだって。その後指示通りにしてくれて助かったよ。さすがは刑事の娘だね」





「で…あたしたち、どうやって帰るんですか?」