あの人っぽい文体『温泉宿・前編』

これはアタシが、出張の仕事の後、とある温泉街に泊まろうとした時の話です。



仕事終わりで思い立ったもんだから、なにしろ飛び込みじゃないですか。




温泉街にある宿の案内所に入って




「今晩泊まれる宿ある?」



って聞いたんですよ。




「ちょっと離れた所ならあるよ。ここから歩いて20分くらいかな」




宿に電話してもらって、夕暮れ時の細い道を東の方向にえっちらおっちら歩いていったわけです。




山道って言えるくらいの荒れた道を歩いていると、20分歩いても30分歩いても全く言われた宿は出てこない。








「おかしいなあ」







一本道を歩いているから、否が応でも出てくる筈なんですよ。










ところが、宿どころか民家すらほとんど無い。











「これ本当にこの道かなあ?」








50分は歩きましたかねぇ。










また一時間かけて引き換えすか?









なんて考えてたら、ついに宿が見えたんですよ。









「やった!」










思わず叫んじゃってね、小走りで宿の前まで来てみると…










小綺麗な昔ながらの作りの宿の、いく部屋にも煌々と灯りが灯ってたんですよ。











「ふーん、こんな山の中なのに結構繁盛してるんだなあ」












温泉なんて秘湯だったり、山の中程人気があったりしますからね。









アタシもなんの不思議もなく宿の扉を開けて叫びましたよ。









「ごめんください」








シーン…









「ごめんください!」









シーン…











誰も出て来ない。







「混んでるから手が足りてないのか?」












ただ、宿が開いてるかどうか聞いてもらってから来てる訳ですから、アタシの分の部屋はある訳ですよ。








仕方ないから玄関に腰掛けて靴を脱ぐと、脱いだ瞬間に








「いらっ〇いませ」









と聞こえる。












振り向くと、なんと!












六人もの女中さんがアタシを囲むように笑顔を貼り付け迎えていたんです…。






「いつの間に…?」










「いらっ〇ゃいませ!」