終着駅11『諸行無常の風にさらされ』

痛みが治まったのは、病院のベッドに寝かされ、しばらくしてからだった。


意識がなくなった訳じゃないけど、あまりにも痛くて朦朧としてしまって、何が何だかわからない状態だった。


病院にいるって事はさっちゃんが救急車を呼んでくれたんだろう。


見当たらないところを見ると、病院に戻ったのかな?


ガチャン。


「さっちゃ…あ、妹さんですね」


「姉は病院に戻らなくてはならなかったので、この病院までは来たのですが一足先に…」


「ご迷惑をかけてすみません…」


「僚ちゃんさんは…自分の身体の事をご存知なんですか?」


「…はい…」


「そう…ですか。姉もショックを受けていたので…お医者さんも私達が僚ちゃんさんをよく知っていると思ったらしくて…失礼ながら病状を伺ってしまいました」


「いえ…さっちゃんに謝っておいてもらえますか? 退院した時の約束も忘れてないからって」


「退院? …わかりました。今日は失礼させていただきます」


この間は気がつかなかったけど、若いのにずいぶんしっかりした妹さんだ。


「具合はどうです?」


入れ替わりに入ってきたのはどこかの作曲家みたいな中年の先生だった。


「今はなんとも感じないです」


「ご自分の身体の事は…」

「知ってます」


「家族の方は?」


「独り者なんで…誰もいませんよ」


「そうですか…転移も始まっていますし…正直、ここまでになっているともう手の施しようがあまりないんです」


「でしょうね…」


「今回みたいな波が、今後は短いスパンでやってくる筈ですよ…」


「余命1ヶ月ちょいなんでしょ」


「いや、2ヶ月程かと…」


「え? 伸びてる?」


「今の状態だとそれくらいになります。抗ガン治療も…」


「いや、それはいいです。僕は自分の過ごしたいように残りの日々を生きる事にしたんです」


「では…明日は退院してかまいませんので」


どうやら、ほんの少しタイムリミットは伸びたらしい。


楽しい事や張りが出ると免疫力が上がり、癌すらも回復に向かう事があるっていうからね。


でも結局は、僕はいなくなる…。


「……怖い………怖いよ! 死にたくない! もっとさっちゃんと一緒にいたいよ…さっちゃん! さっちゃん! 渋谷に行くんだ!」


泣きながら何度も何度も繰り返した。


それが何の足しにもならないとわかっていても…。