終着駅07『共有と張り』

「僚ちゃん、この猫、名前つけない?」


「そうだね…僕が僚ちゃんで君がさっちゃんだから、三毛猫の“み”を取ってみっちゃんはどうかな」


「じゃあそれでいこうよ! みっちゃんと一緒に食べようと思ってファミチキ買ってきたんだ(ニッコリ)。僚ちゃんの分もあるよ。はい」


「ぼ、僕の分もあるの?」


「うん。来るかわからなかったけど…」


……なんていい子なんだろう。


僕はもう既にメロメロだ。


踏み込んでくる距離感と優しさ…そして立ち振る舞いが完全にツボにはまった。


恋愛…というか人を好きになるなんて数年ぶりだけど、こんな娘と人生を過ごしたらきっと幸せだろうな。


……もう無理だけど。


でも、それでも一緒にいるだけで、僕は幸せだった。


わずかな瞬間だけでも、彼女の顔を見て、声が聞けるだけで胸が熱くなっていた。


「僚ちゃん、携帯番号交換しない? そしたらみっちゃんの様子もお互い通りかかった時にメールすればわかるでしょ?」


「うん! …あ!」


「どうしたの?」


「しまった、一昨日携帯壊れてそのままにしてたんだ」


「じゃあ次までに新しい携帯にしてきてね。あたし、明日は病院だから明後日とかに


「うん、同じ時間くらいで大丈夫?」


「あたしデコが仕事だから、自分の時間で抜けたりできるの。だから大丈夫」


「じゃあ明後日に!」


お互いハモって別れを告げた。


寂しい別れも、こんな味付けがあればなんだかウキウキする。


僕の頭は、本当に彼女の事でいっぱいになった。



ちゃん付けされた事。

猫の“共有感”。

電話番号交換の約束。



恋人じゃなくても、たったこれだけの事でずいぶんと嬉しいものだ。


中学時代、好きだった娘と帰り道が一緒になるだけで嬉しかったあの頃を思い出す。


僕は、完全に“張り”を取り戻していた。



「携帯壊れちゃったんで新しいのに機種変してください!」


携帯ショップでも、店員さんに負けないくらいニコニコしながら入っていったよ。


新しい携帯で留守電を聞いてみると、会社からの無断欠勤に対する怒りの電話が入っていた。

「いっけねぇ、連絡するのを忘れてた」


そしてもう一件。


「もしもし、菜摘ですけど。大丈夫? あのね、良かったらカウンセラーを紹介しようと思って。匠さんて言ってフリーの心理学のプロなんだけど…電話ください」