終着駅06『さっちゃん』

「そんな高そうなマグロあげてるのは何かのご褒美?」


「い、いやそういう訳じゃなくて…」


しどろもどろになったのは、癌の事を隠したかった訳じゃなく、彼女があまりにも美人だったから。


まるで猫の化身のような大きな目と、少女のようなコケティッシュな喋り方。


見た目はちょっとギャルっぽいけど明るくて品がある感じ。


僕は、一瞬で全てを奪われた。


「自分の猫でも無いのにそんな高そうな刺身買ってあげるの?」


「…初めてパチンコやったら当たっちゃって、それで…」


「ふうん…いい人なんだね(ニッコリ)」


微笑む彼女に見とれてしまう。


それくらいオーラがある女性だった。


「あたしもこの猫にたまにご飯あげてたんだよ」


「えっ…そうなの?」


「そう。そこのマンションに妹と住んでるの。妹もご飯あげてるみたい」


「そうなんだ! 僕も近所なんだよ」


名も知らぬ雑種の猫よ、グッドジョブ。


こんな娘と話すキッカケになるとは…。


「また会うかもね。じゃあね」


「う、うん! また!」












僕は、一撃で恋をした。










四十歳になってこんな一目惚れをするなんて…しかも癌告知の翌日。



良かったのか?



悪かったのか?



複雑な気持ちだ。


でも少なくとも、生きる糧は出来た。


名前も知らない彼女をそんな存在に祭り上げる事は馬鹿げていると、普通なら僕も思う。


彼女だって彼氏がいるかもしれないし、ステージ靴隆發鮃霖里気譴針佑付き合える訳じゃない。


だけど、今の僕にはほんのわずかな生きる支えさえ無い訳で…。


彼女は、残りわずかな人生に張りを与えてくれる存在になった。


そして不思議な事に、たったそれだけの出来事が、僕の曇った目を変えた。


どんよりと鉛色に染まっていた曇りが晴れたんだ。


フラットに考えれば彼女の事を考える時間が自分の死を意識する時間に取って代わったということなんだろう。




そして次の日。




僕の身体は医者でも会社でもなく、猫のいる駐車場に向かっていた。


「あ! 昨日の人!」


彼女がいてくれた事は、運命とすら思えた。

「僕、鹿島僚太」

「僚ちゃんだね。あたし里美。さっちゃんて呼んで」



しかし…この時彼氏の有無より遥かに複雑な事情を彼女が抱えていた事に、僕は気付けなかった…。