終着駅04『真の恐怖』

胸倉を掴まれた僕は、猫が鼠を弄ぶように地面に引き倒され、ひたすらに蹂躙され続けた。


何度も何度も殴られて。



殴り合いなんて生まれてこの方一度も無い四十路の70キロ未満の身体が、三人の若いチンピラに動けなくされるまで時間はかからなかった…。


「オラ、どしたオッサン」


ガツン!


「ビビって声もでないのかよ!」


「まだまだ済まないぞ」


「う…………………」


でも、変な感覚だ。


痛いとか、怖いとか。


普通ならそれ一色に染まるであろう感覚が、この夜の僕にはなかった。


多分痛いのは痛いんだろう。



しかし。



まるで乗り移ったばかりの他人の身体みたいだ。


やられる自分を他人みたいな目で見ていた。


「こいつ弱いな!オッサン、今度から気ィつけろよ!ペッ」


ツバまで吐きかけられ、彼らのかわいがりは終了した。


背を向け立ち去った獣と入れ替わりに、仰向けに寝そべる僕の顔に水滴が刺さる。


ポツ…ポツ…。


「あ…め…か…」


小雨が降り出した寒い夜に、いつまでも地べたに寝転がっている訳にはいかないよね…。


「い………て…」


口を開けたら、折れた前歯が転がり落ちた。


「なんなんだ…今日は…」


癌を宣告され友人の誕生パーティーでは孤独を感じ、昔の彼女には相手にされず。


おまけに殴られ雨に濡れ…多分風邪もひくんだろうな、これ。


ふと見たら、携帯も三人組に壊されていた。


情けなさすぎて…。


「なんだ俺。こんなんありか…」


なんとか傷だらけの身体を引きずり家の扉を開ける。


何もする気の無い僕はベッドに倒れ、この散々な夜を思い返した。


達也の顔、菜摘の顔。



今日、僕はどんな顔をしていたんだろう。


自分を出さずに…



「ちくしょう…」


涙が止まらない。


「ちくしょう…」


悔悟も止まらない。


30分以上泣き続けて、気が晴れるかと思ったけど…逆にある事に気づいてしまった


こんな散々な夜。



だけど、僕にはその



“散々な夜”



すらも、もうやってこない。







それこそが











“真の恐怖”









だった。










この日から。












当たり前の日々がもう来ない事への恐怖と闘う事が、僕のライフワークになった…。