終着駅03『期待と現実』

数年振りに顔を見た昔の相棒は、いささか年は感じたが華は衰えていなかった。


「いや、ちょっと顔を見たくなっ…」

「何か特別な事があったんだね」


こちらが最後まで言い終わる遮って話すその喋り方。

せっかちな彼女が素の時に見せる癖だった。


「何があったの」

「胃ガンでステージ靴世らもう助からないっぽいんだ」

「…そんな事言われてもどう言ったらいいかわからないよ、四年も会ってないし」

「そうだよ…ね」


僕はいったいどうしてここに来たんだろう。


親も妻も子供も、今の彼女すらいない自分が、癌になった事を打ち明けられる相手は…四年も会っていない元カノだとでも思ったんだろうか。


逆に、こんな重い話を打ち明けられたらなんて言えば正解だろう?


おそらく世の中の大半が彼女と同じ返事をするのではないだろうか。


人の気持ちを解る余裕はなかった。


励まして欲しかったのか。


慰めて欲しかったのか。


いずれにせよ、彼女が大きな目で僕をジッと見つめた後に出た台詞は、僕が彼女の気持ちを考えずに土足で踏み込んでしまった代償にも思えるような、空虚なボキャブラリーだった。


『最後は一緒にいてあげる』


とか


『きっと治るから』


優しい言葉を期待するならこんな感じだろうか。


こんな台詞を言われたら今日という日がちょっとはマシになる。


でも現実はやっぱり違った。


彼女の選んだ言動は、僕の心に撃ち込まれた弾丸を、更に押し込んだのだ。


「入院したらお見舞いに行くから、教えてね」

「あ、ああ…そ…」

「菜摘さん、お願いします!」


クソっ…店員までが僕に最後まで喋らせないのか…


「抜かれちゃったから、後でね」

「あ…」


自分のグラスの上に名刺を置いて、彼女は席を立った。


遠ざかる菜摘の背中。


これが本当の僕と彼女の距離。


僕は勘違い野郎だ。



結局菜摘が戻る前に、店を出た。


来なきゃよかった。


「帰るか…」


僕は、誰もいない家に帰る覚悟を固めた。


「今晩辛いだろうな…」


外に出ると、寒さは一段と増していた。


でも、芋洗い坂に出てすぐ…店に入る前より更に落ちた肩に何かがぶち当たった。


バンッ!


「オッサン!イテェな!どこ見て歩いてんだよ!」



あっという間に、僕の身体は凶暴な三人組の若者に引きずり倒された…。