終着駅02『逝くもの、残る者』

十年来の友人・達也の誕生会は、六本木の和食料理屋・日いづるで行われていた。


ドアを開けると、シャンパンを煽っていた8人程がこちらに目を向ける。


「よう鹿島!」


愛想笑いを浮かべながら僕は乾杯に迎合した。


「達也おめでとう!」


達也は32才になるというのに嬉しそうだ。


「乾杯!」


「乾杯!」


「乾杯!」


和食に舌鼓を打ちながら、仲間達が延々と乾杯を繰り返す。


およそ嘘とは縁遠く生きてきたつもり…だけど、今夜ばかりは徹底的に嘘をつき続けよう。


達也の笑顔に負けないくらいの笑顔を精一杯作って…。






逝く者と残る者。






不思議なすれ違いがこの空間を僕にとって象徴的に感じさせていた。


あれほど何度も一緒に馬鹿騒ぎした仲間達が、なんだか遠い他人のように思えたのだ



いや…そうじゃない。



この世に生きる全ての他人が、なんだかまぶしく見えただけかもしれない。



僕だけがこちら側にいる。




皆は向こう側にいる。







巨大な、超える事ができない壁を…感じさせた。



僕は




“散る”




んだ。


まだ尽きるまでもう少しあるこの命が、もはや風前の灯であるような錯覚。


死刑宣告を受けるという事は、自分の何かが破壊されたという事と同じだと感じた…



とてつもない




“何か”



が…。



「乾杯!」


「乾杯!」


「乾杯!」



響き渡る乾杯の叫びが、まるで僕の最後の晩餐を彩るように酔わせていった…。



普通はこんな状態で酔ったら何をするんだろう?


家族に会う?



でも家族はいないよ…。



結局その日一次会で抜けた僕がベロベロに酔ってとった行動は…数年前に別れた彼女に会いに行く事だった。



元…彼女は、夜の女だ。


六本木芋洗坂をほどなく上った分岐にあるビルのエレベーターを上ると、数年振りに会う彼女は驚きの表情でこちらにやってくる。


「菜摘、久しぶり」



「一体どうしたの…?」


彼女は、歓迎とは言い難い戸惑いの眼差しを僕に突き刺した…。