あの人っぽい文体『来訪者・後編』

「あ……れ……?」








湯船の中でね、足にお湯が触るんですよ。









物体じゃない。









お湯。










もし誰かいるんだったら、足でも手でもアタシの体に触りますよね。











ところがそういう感触は無い。










おかしいなあ、ヤだなあと思って、なんか楽しい事を考えようとする。










でもこれがどうしても気が晴れないんだ。











な〜んか暗い。











な〜んかよどんでる。













「…気のせいだよな」


って、試しに体の向きを変えてみたりして。








でも自分が動いても自分にお湯は触らないですよね、当然。










「おかしいなあ」









そんな事をやってたらなんだかのぼせてきたし、もうあがろうかと思って栓を抜いたんですよ。




グアッとチェーンを引っ張りながら立ち上がって。












ところが。













栓が抜かれた筈なのに、お湯が減らない、動かない。












ドキッとするじゃないですか。




普通お湯が減っていきますよね?









もうただ事じゃない。









栓抜いてんのにお湯減らないなんて有り得ないから。










でも怖くて下を見られない。









ちょっと待ったけど、お湯はそのまま。






また嫌〜な空気がどんどん濃くなってくるんですよ。









どんどんどんどん。











意を決してね、下を見ることにしましたよ。







怖いから、ゆ〜っくりゆ〜っくり…。












少しずつ少しずつ下を見ていくと…










お湯の中には何もいない。









「なあんだ」







でもね、じゃあお湯はなんで抜けないんだってなりますよね?






栓がハマってた穴に目をやると…














「ギャッ!」











穴の向こうには












“ギョロリ”











と血走った目がこっちを物凄い食い入るように見てたんですよ!!







そのマンション、一年住んだんですけど、それ以来銭湯を使うようになりました…。