ジ・コントローラー〜司る者亜愨亰茲了』

何事も無く夜が開けた。


いよいよ今日は教祖を拝める日だ。


フフ…もっとも僕の場合、拝むだけじゃ済まさないけどね。


しかしカイムの食事を食べなかったから、お腹が減ったなあ。


「匠さん、まもなく雁波教祖のお話が聞けますよ」


「お、じゃあ行こうか。恵さん、お腹はどうだい」


「それが、朝起きたらなんともなくて…生理じゃなかったみたいです」


「そう…ところでさ、カイムの修業ってどんな事するの?」


「修業は世間を捨てて中に入った人がするもので…心眼を鍛える、夜山の中から身体一つで帰ってくる修業とか、血を沢山抜いて身体の毒素を抜く修業とか…」


「…なるほど。一歩間違えば死ぬかもしれないな」


「死の直前まで“自分”を無くしてそこから“神”に向かうのがソーマエネルギーに満ち溢れる基本の方法だそうです」


「ふうん…死んだら上質もクソもないけどな…」


“だ、そうです”


向こう側にどっぷり使った人間ならば、こんな他人ごとのような言い方はしない。


恵さんは、着実にカイムの支配力から逃れてきていると言えるね。


後はとどめになる出来事があればいい。


「僕はちょっとトイレに行ってから行くよ。恵さんは先に行っててくれない?」


「わかりました」


僕はホールの裏側に回ってみることにした。


「教祖控え室につき立ち入り禁止」


身内しかいないからだろうけど、ステージに繋がる控え室にはこの張り紙だけで見張りはいない。


「不用心だなあ…」


部屋に忍び込むと、高そうな壁掛け時計の針は正午を指していた。


テーブルの上には予備のマイクが置いてある。


「皆さん!上質世界にようこそ!」


「ワアー!」


「始まったか…」


教祖のマイクアジテーションが繰り返される。


「皆で上質世界を作るのです!」


「ウワアー!」


「百人くらいかな…みんな熱くなってるなあ…」


控え室はステージのソデと扉一枚を隔てただけ。


意味の無い叫びが実によく聞こえるよ。


「ソーマエネルギーの高い人間同士は一緒にいる事で互いのエネルギーを高めます! 我々がいるこの場所そのものが上質世界なのです!」


「ワアー!」


僕は予備のマイクを持ち、つかつかとステージに出て言った。


「フフ…ホントにそうかなあ?」


「誰だ!?」



ギョッとした100人の目線が僕に注がれる!