ジ・コントローラー〜司る者『コントロール』

『怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』


これはニーチェの有名な格言。


暗闇で1対1。


視覚と聴覚を限定し洗脳対象者を暗示にかけやすい環境を選んだカイムの特別カリキュラムは、新興宗教や自己啓発セミナーの類ではごく当たり前と言える。


がしかし、相手が僕だというのが誤算だ。

暗示にかけやすい環境。


それはすなわち、僕にとっても同じなのだ。


深淵の奥から、僕もまた彼女を見ていた。



目をつぶる彼女に僕はプロファイリングの結果をぶつけた。


「あなたは…穏やかな性格で押しに弱く、カイムに入る前は常に自分がこれでいいのかを悩んでいましたね」


パンッ…パンッ…


「は…はい…」


パンッ…パンッ…


「一人っ子で…男性に対して恐怖心が強い…」


「なんで…わかるんですか…」


DVの男性から逃げられないのであれば当然押しに弱く気も弱い。


常に悩んでいるというのは


『こんな男性を選んでしまった』


『でも好きだ』


と繰り返すから

“逃げたい”


のに


“逃げられない”


という図式を指す。


そして、普通DVの男性と付き合っていれば…宗教に入らないと別れられないという珍しい方法に行き着く前に、兄弟が気づいたり干渉してくる場合が多い。

また、宗教に入る時も大概家族は反対するものだ。


更に言えば一人っ子というのは兄弟という鏡が無いために、特に社会人になって人間関係の空間把握能力がいびつな形で現れる事が多い。


これらを想像すると、先ほど挙げた彼女のファイルは容易に想定できる訳だ。


「匠さん…何で…」


パンッ…パンッ…


「僕もまた特別な力があるんです」


僕はそういって彼女の左頬に右手を当てた。


これ、薄暗い中で女性にやるとドキッとされるんだよ。


ドキッとするという事は、その瞬間だけは僕の事しか考えないという事。


加えて、僕は足で暗示にかかりやすいリズムを奏でていた。


「あ…」


「教祖じゃなくてもこうした能力はあるんです。ソーマエネルギーについて僕は教祖とぜひ話したい。明日の集会の段取りを教えてもらえませんか?」


「はい…時間は二時からでホールの控え室入口はBルームの…」


フフ…いよいよ教祖に近づく時が来たよ。