哀唄『鮮血の果てに』

「…」

俺は、すくんだ。

貴美の首と腕はケロイド状と言っていいのか…血肉でグチャグチャになり、目は魔物のような狂気を帯びた目。


17年生きてきて、ここまで凄惨な現場に直面した事などなかったからだ。

何が何やら、どうしたらいいのか、頭が真っ白になっていた。


しかし…狂気の主は凍りつく俺と別の時間を生きているように、ゆっくりと立ち上がり俺を見つめながら自らのカバンに手を伸ばす…。

「お…ちつけよ…」

それだけ言うのが精一杯だった。


そんな俺のかすれた叫びが彼女に届く筈もない。

…どころか、逆に怒りすら誘発したようだ。


「黙れェ!黙れェ!黙れェェェ!」


ザグリッ!


腰が抜けたようにうつぶせに横たわる俺の目からわずか二センチの床に、光るものが突き刺さった。

「えっ」

それは、注射器だった。

慌てて俺は身体を起こす。

「な、なんだよこれ注射器!? なあ落ち着けって!」

「ううるさいィ!!!」

「うわあああっ」


ザグッ!


再び振り下ろされた注射器を、間一髪かわした俺は、玄関前に転がりこんだ。


「名前を呼んでないなんてェェ! よくも嘘ォォ!」

「うわあっ」


咄嗟に彼女を蹴り飛ばした。

足は幸運にも彼女の腹部に当たり、そのスキにマンションの共用廊下に。


後はどこをどう走ったのか…気がつけば中山が借りたばかりのアパートでヤツに馬乗りになっていた。

「という訳なんだよ中山」

「そ…それは怖い…まだ先輩ん家にいるでしょうから、しばらくウチにいてください。あと…」

「ん?」

「降りてもらっていいッスか…」

「お!おお。ついクセでな」

「なんのクセなんスか…」


こうして俺は中山のボロ屋で暮らす事にし、恐怖の一夜は一生忘れられないトラウマとなった。


翌日、俺は貴美と知り合った飲み会の幹事に苦情と報告を兼ねて電話してみた。

「おい! この間の飲み会に来てた貴美っていう女ヤバいヤツじゃないか」

「へ? きみ? そんなの呼んでないよ?」

「な…に…?」