哀唄『湿度と距離感』

「…」

「もしもし?良一?」

「あ、ああ聞いてるよ」
「今ね、良一のマンションの下にいるの」

「えっ!…だって俺今日はいないって!昼間言ったじゃないか」

「ちょっとでも会いたいなあと思ってたら足が向いちゃった」

「でも、まだ帰らないよ…」

「まだまだなの?エントランスで待ってるからね」

「あ…そう…」

「でも早く帰ってきてね」

「ええ?う…うん」

電話を切った俺は、中山の視線で自分の顔色を知った。

「センパイ、どうしたんですか?」

「実はな…」

あまりにも熱に開きがある男女がうまくいくのだろうか。

何かが冷めていた。

まるで、流行りだからと喜んで着ていた洋服を、数年後にタンスの奥から見つけた時のような…なんとも言えない冷ややかな気持ち。


なんでこうなるんだ?


「んで、どうするんすか?」

「なんかあまり会いたくないな。今日は朝までコースにしようぜ」

「きっとその娘も朝まで待ってられないで帰っちゃいますよね」

「オウ…飲むぞ!」

重い気持ちを酒で流し込み…だが、この判断が後悔の源になったのは、数時間後、日が昇り始めた頃だった。


そして。



時計が5時を周り、眠い目をこすりマンションの玄関をくぐると…エレベーターの前に直立不動で…貴美が立っていた。

「良一!」

「あ、ああ…」

「遅かったじゃない…」
俺に向けられた顔からは、安堵の表情というにはなんだか…湿度の高いウェット過ぎるなんとも言えない粘っこい空気がまとわりついていた。

「なあ、こんなに待ってなくても良かったのに…」

「いいの!だって顔見たかったんだから!今日会えなかったら死んじゃってたよ」

「死んじゃ…」

かけらもニコリとしていない抗議的なその目つき。


冗談には聞こえなかった。


つまりは…。